第40話:諦めましょうよー
「それじゃあ神戸さん、僕たちから先に乗ろうか」
菱本が観覧車のゴンドラへと結衣をエスコートするのを、渚は忸怩たる思いで見つめた。
結衣は無表情ながらもさしたる抵抗もなく、菱本の手を取って乗り込んでいく。
おそらくは渚が菱本とゴーカートで競い合っている最中に、結衣もまた雛子から賭けについて聞かされていたのだろう。
渚は賭けに負けた。
そもそも運転を趣味にして走り屋のようなこともやっている菱本相手では、あまりにも分が悪すぎた。
それでも最後まで接戦を演じたのは渚の意地か、はたまた菱本による演出なのか。
どちらなのかは分からないが、渚が敗北した結果、菱本が選んだパートナーは予想通り雛子ではなく結衣だった。
「ほらほらー、いつまでも怖い顔してないで、私たちも乗りますよー」
次のゴンドラがゆらゆらと渚たちの前へと降りてきて、仕方なく渚は雛子に誘われる形で乗り込んだ。
ふたりの重みで大きく揺れる中、渚が進行方向側に、雛子がその対面へと座る。
が、渚は雛子に背を向け、先を行くゴンドラに座る結衣の後頭部を心配そうに見上げるばかりだった。
「もう、先輩! せっかくふたりきりなんだから結衣さんじゃなくて私の方を見てくださいよー」
そんな渚にぷんぷんと怒ってみせる雛子の主張ももっともだ。
「……小泉さん、僕のことを騙したの?」
しかし渚は謝ることなく、背中を向けたまま雛子へ問いかける。
「騙してなんかいませんよー。菱本さんから付き合おうって告白されましたしー、デートにも誘われましたしー」
「だったらなんであいつ、小泉さんじゃなくて結衣と観覧車に乗ってるんだよっ!?」
「そりゃあ結衣さんを狙っているからに決まってるじゃないですかー」
「そんなのおかしいよっ! だってあいつ、小泉さんが好きだから付き合ってて告白してきたんでしょう!?」
「あー、それは先輩の勘違いですねー。菱本さんは『神戸さんを口説きたいから、それに付き合ってくれ』って私に心の内を告白してきただけですしー」
「はぁ!?」
あまりに酷すぎる雛子の言い分に、さすがの渚も怒って振り返る。
その瞬間を狙っていたかのように雛子が突然抱きついてきて、ゴンドラが激しく揺れた。
「ちょ! 危ないよ、小泉さん!」
「渚先輩ー、そろそろ結衣さんのことは諦めましょうよー。こんなこと言うのもあれですけどー、結衣さんの方はもう先輩に愛想を尽かしてますよー」
「……それはないよ」
「でもー、結衣さん、私が先輩たちの賭けの話をしたら『そうですか』って抵抗なく受け止めてましたよー? 普通に考えたら先輩が菱本さんに勝てるわけないじゃないですかー。だから本当に先輩のことが好きだったら、そんな賭けは認めないって反対しませんかー?」
「…………」
黙り込んでしまう渚に、雛子は内心しめしめとほくそ笑んだ。
雛子から見て、今の渚は不安で押しつぶされそうになっている。
菱本に結衣を盗られちゃうのではないかと焦り、結衣もまたそんな菱本を受け入れてしまうのではないかと疑心暗鬼に陥っている。
全ては雛子と菱本が立てた計画通りだ。
あの合コンが終わった後、ふたりはお互いの目的を達成するためには利用し合うのが一番だと合意に至った。
菱本が結衣を、雛子が渚を。個々に攻略するのは難しくても、ふたりが連動して同時に攻めれば落とすのはそう難しくない。
事実、目的はもうすぐ達成されようとしている。
「それにー、このデート中の先輩ってホントにダメダメだったじゃないですかー。結衣さんが見切りをつけちゃうのも分かりますよー」
「…………」
「だけど私はそんな先輩が可愛いなってますます好きになったんですけどねー」
そう言ってクスクス笑う雛子は、ここぞとばかりに自慢のおっぱいを渚へと押し当てた。
甘い雛子の香りが渚の鼻孔を擽り、おっぱいの弾力感が渚を天国へと誘う。
チェックメイト。
雛子は心の中でそう呟いた。
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