第37話:好き好き大好き
「へぇ、ダブルデートですか」
翌日。いつものように渚は結衣へと昨夜雛子と話したことを報告した。
雛子が渚のアドレスを知った以上、遅かれ早かれコンタクトを取ってくるのは必然。
ならばそれを結衣にも共有して、何か動きがあればふたりで対策を考えることになっていた。
「ふむ、あのおっぱいおばけめ、早速仕掛けてきましたね」
「おっぱいおばけって。またお嬢様らしからぬ言葉を」
「何か言いました?」
「ううん、別に。それでどうしよう。どうやって断ったらいいと思う?」
雛子には悪いけれど、渚の中ではお断り一択だった。
これがもし普通の可愛い後輩の頼みであれば、渚も先輩として一肌脱ぐこともあるだろう。
だが雛子はどう考えても自分をまだ狙っている。
恋愛相談と称して毎日電話をかけてくるのがその何よりの証拠だ。
そんな相手とダブルデート――。
嫉妬深い結衣と鉢合わせるなんて考えただけでも胃が痛くなる。
「なんで断るんです?」
結衣がニヤリと笑った。
「渚先輩、消極的な対応では状況は何も変わりませんよ。ここは堂々と受けて立ちましょう」
「ええっ!? なんで!?」
「なんでも何もこの為に先輩は毎晩夜遅くまで電話に付き合ってきたんじゃないですか」
「どういうこと?」
「いいですか、先輩。今の状況は私たちにとって迷惑以外の何物でもありません。ですからこんなのは早く終わらせるに限る。でもこちらから動くことは難しい。だったら相手に動いて貰えばいいんです」
「ええっ!? てことはこうなるようにわざと仕向けたってこと?」
「そうです。いいですか、先輩。相手が攻撃に出ている時こそ、こちらも攻撃のチャンスなんです。想像してみてくださいよ。あのおっぱいおばけが先輩を落とそうと必死になっているのに、当の先輩は私のことが好きで好きでたまらないって姿勢を見せ続けた時の反応を。これは効きます。絶対心が折れます」
「僕が、結衣を、好きで好きでたまらない……え、お互いにラブラブじゃダメなの?」
「ええ。もとはと言えば先輩が隙を見せたから、相手はそこに付けこもうとしてやがるんですよ。ですからその隙はもうないよ残念でしたおととい来やがれって知らしめてやった方が効果的です」
ふんすっと鼻息荒く語る結衣に、渚は少し引き気味な顔色を浮かべる。
残念でした、おととい来やがれって。
女の情念、怖い。
「と言うわけで、おっぱいおばけには私も楽しみにしてますと伝えておいてください」
「……なんだか本当に楽しみにしてそうだね?」
結衣の声音にどこか心浮き立つところを感じ取った渚は、恐る恐る尋ねてみた。
「そりゃそうですよ。当日、先輩がどんなに私のことを好き好き大好きしてくれるのか考えると楽しみで仕方がありません」
「好き好き大好きって、また一体どこでそんなパワーワードを……」
「何か言いました?」
「いえ、何も」と口ごもる渚に結衣が「期待してますからねっ!」と念押ししてくる。
多分結衣はライバルである雛子を蹴散らすと同時に、渚自身も試しているのだろう。
改めて女って怖いと思う渚だった。
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