僕たちは恋人を寝取られたくない!~次に寝取られたら女の子になっちゃう呪いにかかった彼氏と、そんな彼氏が実は美女を引き付ける異能持ちだと知って頭を抱える彼女の物語~
第34話:ちっとも私のことを分かっていません
第34話:ちっとも私のことを分かっていません
レストランを出て十数分後。
「……ごめん」
停めた車の中で渚がようやく口を開く。
大学の駐車場だった。
時間はまだ9時を少し回ったところ。駐車場にはまだぽつり、ぽつりと車が停められてはいるものの、人の気配はない。
「それは何に対する謝罪ですか?」
助手席に座った結衣が渚へは視線を向けず、ただまっすぐに、闇夜をぼんやりと照らす街路灯を見つめたまま問う。
これが店を出てから初めての会話だった。
「結衣を裏切ったこと……その場凌ぎのウソとは言え……結衣とは別れたなんて言っちゃったこと……」
紡ぎ出す言葉のひとつひとつが重い。
渚は心臓が何かにぎゅっと握りしめられたかのように苦しくて仕方がなかった。
「……それだけですか?」
湿り気を帯びる渚の言葉に対して、結衣のそれはとても乾いたものだった。
「それから結衣に黙って合コンに参加しちゃったこと……」
「……他には?」
「あとは……」
返答に詰まった渚は、懸命に自分の記憶の足跡を辿る。
他に結衣を傷つけること、結衣への不遜な言動はあっただろうか。
「えーと……えーと」
「はぁ」
結衣が大きく溜息をつく。
渚は慌てて隣に座る結衣の身体にすがりついた。
「ちょ、渚先輩、放してください!」
「ごめん! 今すぐ思い出すからもう少しだけ待って! お願いだから!」
「はぁ、もういいですよ。先輩は気付いてないみたいですから」
「ごめん! 本当にごめんなさい! でもお願いだから出て行かないで! 僕、結衣と別れたくないんだ!!」
「は? どうして先輩と別れなくちゃいけないんです?」
「……え? だって今、呆れて車から出ようとしたでしょ?」
「別に。先輩がさっきから見当違いなことばかり言ってて、一番気付いて欲しいところに全く気付いてないようだから、思わずため息が出ただけです」
「見当違い?」
「そうです。いいですか、まず私と別れたってウソ、あんなのはどうだっていいです」
「……そうなの!?」
「そうですよ。先輩の性格と状況を考えたら、そんなウソをつかざるを得なかったことぐらい簡単に想像が出来ます。それをあんな男の言葉にころっと騙されちゃって深刻にとらえるなんて、先輩、チョロすぎません?」
「そ、そうかな……え、じゃあ黙って合コンに出たっていうのも?」
「それはお互い様でしょう。私も結局断り切れなくて先輩に内緒で参加しちゃったわけですし、非難出来る立場じゃありません」
「えっと、だったら一体、僕は何に謝れば……」
「仕方ないですね、教えてあ……と、その前に抱きつくのやめてもらえますか? その、車の中、暗いとはいえ外から丸見えですし」
「あ、ご、ごめん!!」
慌てて結衣の身体から飛びのく渚。
その姿が面白くて結衣は思わず「ぷっ」と噴き出し、すぐに「ごほん」と咳払いして話を続けた。
「いいですか。先輩はちっとも私のことを分かっていません」
「そ、そんなことはないと思うけど……」
「いいえ。そもそもここ最近の私を先輩はどう思ってました?」
「どうって……別に」
「ウソですね。市展に負けて不貞腐れてて、面倒くさいって思ってたでしょ?」
「そ、そんなことちっとも……」
「いいんです! 実際、面倒くさい女なんですよ、私は! でも、その面倒くさい女をもっと面倒くさくさせているのは先輩のせいなんですからねっ!」
言われて渚はきょとんとしてしまった。
果たして結衣は何を言わんとしているのだろう?
もしや全ては市展で自分が市長賞を取ったのが悪いと言いたいのだろうか?
そんなこと言われても困るのだけれど……。
「あ、今、『市展で市長賞を取ったことを責められても困る……』なんて考えましたね?」
「ええっ!? ううん、別に……」
「はい、またウソです。先輩はなんだかんだで私によくウソをつきますけど、顔に出てるからモロバレなんですよ。それもムカつくのですが、私が最も腹立たしいのはそのウソのほとんどが私を気遣って使われているってことです!」
「で、でも……」
「はいはい、親しき仲にも礼儀ありと言いますし、気配りは大切ですよ。ですけど先輩のそれは私を恋人と言うより妹か何かと勘違いしているんじゃないかって思えてなりません。そりゃあ私と先輩ではひとつ年齢が違いますよ。でも、私は先輩の恋人であり書道のライバルです。私は対等の立場でいたいんです。だから」
「子供扱いするな、ってこと?」
「そう! その通り!」
ようやく気付いたかと、ここぞとばかりに結衣は言ってやった。
「合コンなんてこの歳なら誰だって行くでしょう? 市展だってコンテストなんですから勝った負けたは当たり前です。合コンで浮気するかもなんて疑わないでください。コンテストで私を負かしたんだから堂々としてくださいよ。変に疑われるから信頼されてないのかと苛立ちますし、妙に気を使われるからかえって落ち込むんです。あまり私を見くびらないでください!」
一気呵成に浴びせられる結衣の主張を、渚は沈黙で迎え入れた
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