第32話:まんまと騙されちまった
いきなり渚と結衣の修羅場と言うケチがついてしまった合コン。
しかし、いざ始まってしまえば料理は美味しく、話は盛り上がり、やがて一組、また一組とカップルが出来て……なんてそんなわけなかった。
「……健斗先輩、もう帰っていいッスか?」
「ダメっ! 頼むから一緒にいてお願い!」
「でも女の子たちもつまらなそうにしてますし、早くお開きにした方が……」
一年生君の言うように、先ほどから女の子たちはシラーとして黙々と料理を食べている。
理由はみっつある。
ひとつはこの合コンで飛び抜けての優良物件である渚が、既にカノジョ持ちだったということ。
次にその渚を雛子が独占していること。
そして最後に。
「てか、どうしてあっちのグループと隣同士なんスか!?」
「そんなの俺だって知りてぇよ。しかも席を変えて欲しいのに満席でそれも出来ないし……ああっ、誰かなんとかしてくれぇぇぇ!!」
健斗、魂の慟哭である。
しかし、渚はそんな親友の嘆きを気にすることなく、ただひたすら隣のテーブルの様子を凝視していた。
テーブルの右端、隣のテーブルに一番近い場所でそれだから、ほとんどこちらのメンバーとの会話を拒否するような形になっていると言っていい。
ただ、これでもまだ少しはマシになった方だ。
最初は左端に配したところ、テーブル越しにずっと向こう側を睨みつけているのだから、そりゃあもう健斗たちの居心地の悪さったらなかった。
唯一、渚の前の席に座った雛子だけが何かと話しかけたり、あるいは渚の口へパスタやピザを勝手に放り込んではキャッキャと楽しんでいる……。
「そもそもあの人、何考えてんスかねぇ?」
嘆息した一年生が視線を向けるのは渚……ではなくてその向こう、隣のテーブルで先ほどから結衣に付きっきりでアタックを仕掛ける色男である。
「あの人、菱本さんって言いましたっけ。あの人があんなことするから渚先輩も気が気でないんじゃないッスか。さっきの痴話喧嘩でふたりが付き合っているのを知っているくせに、どういう神経してるんスかね?」
「……はぁ、まんまと騙されちまったなぁ」
「どういう意味ッスか、健斗先輩?」
「そのまんまだよ。さっきは上手く場を収めてくれたと感謝したけど、なんてことはねぇ、あいつ、神戸さんを口説き落とす為にわざとあんな小芝居を打ったんだよ。相当な性悪野郎だぜ、あれは」
「でも、さっきの流れなら渚先輩たちはそのまま破局しそうだったじゃないですか。だけどあの人が口を挟んだおかげで、そこまでは行かなかった。神戸さんを狙っているのなら、あそこは放っておくの一択だと思うんですけど」
「だから性悪だって言ったんだよ。多分だけどあいつ、渚が見ている前で神戸さんを落とすつもりだ。彼氏が見ている前で、カノジョを奪い取ってやろうって腹なんだよ」
そんなこと、マンガやドラマじゃないんだから普通はあり得ない。
だからこそさっきはついつい素直に菱本の言葉を健斗は信じてしまった。
でも相手はセンスのいい高級スーツを着こなすイケメン。
これまでの人生で女の子には不自由しなかったことだろう。
となれば普通の恋愛には飽きてしまって、略奪愛とかに燃えるタイプであってもおかしくはない。
でも一番の要因は、なんと言っても渚の寝取られ体質だろうなと健斗は舌を巻く。
これまで9人のカノジョを寝取られてきた渚。
そんな渚だからこそ、こんな漫画みたいな修羅場も起こってしまうのだろう。
「うわああああ。お前の寝取られ体質に俺まで巻き込むな―!」
「わっ! いきなりどうしたんスか、健斗先輩!?」
つい心の声を叫んでしまい、ぎょっとした目を健斗へ向ける一年生たちと不審な面持ちの女の子たち。
もうダメだよ、この合コン……。
「へぇ、君って寝取られ体質なんだ?」
しかもその声は隣のテーブルにまで聞こえてしまい、件の菱本がニヤニヤと結衣の身体越しに渚に視線を送ってくるのだった。
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