第30話:元カノさんが一体どうして
「渚先輩、説明していただけますか?」
にっこりと微笑みながら、しかし決して朗らかなものではない口調で結衣が渚に迫る。
「もちろん、私にもちゃんと納得出来る説明でお願いします」
無理だ!
この場に居合わせた教育学部の学生たちは一斉に皆、そう思った。
渚と結衣の関係は、有名な美男美女のカップルと言うことで学部の全学生が知っている。
結衣に惚れ込んだ渚が、彼女を他の男たちに盗られまいと必死なことも知っている。
それだけに渚の今回の行動は、結衣を大きく裏切るものだ。
説明なんて出来るわけがない。
ましてや片腕には巨乳の女の子が腕を絡ませて、さらにはおっぱいを押し付けられてのご入場。
もう一度言う。
説明なんて出来るわけがない。
「あー、神戸さん、実は俺が合コンに渚を無理矢理付き合わせただけで……」
それでも健斗が何とかこの場を収めようと助け舟を出そうとした。
が。
ジロリ。
結衣に「部外者は黙っていてください」とばかりに睨まれて、健斗丸はあえなく沈没した。
「さぁ先輩、黙ってないで早く説明してくださいよ」
「…………」
「まさかとは思いますが、言い訳を考えていたりします?」
「…………」
「言い訳なんて出来るわけがないと思いますけど?」
渚が黙り込めば黙り込むほど、結衣の言葉がキレッキレになっていく。
渚の背後で一年生たちが「ああー、楽しいはずの合コンがーっ!」と心の中で嘆いていた。
「ちょっといいですかー?」
そんな修羅場に場違いな、明るい声が渚の隣から上がる。
雛子だ。
この状況にぽかんと口を半開きにしながらも、今なお渚の腕へご自慢のおっぱいを押し付けてしがみついたままの当事者たる雛子。
しかしここで潔く身を引き、雛子から渚にアタックしたことを話して詫びれば少しは場の空気も軽く――。
「渚先輩の元カノさんが一体どうしてそんなに怒ってるんですかー?」
その一言でますます場が重くなった。
「元カノってなんですかっ! 私は今もれっきとした渚先輩の恋人です!」
「えー、だって先輩が言ってましたよー。あなたとは別れたって」
「ええっ!? 僕、そんなこと一言も」
「でも先輩、私が『前のカノジョさんとは別れたんですか?』って訊いたら『そんな感じ』って言ったじゃないですかー」
「そ、それはその……後ろで健斗がそう言えっていうから仕方なく」
慌てて言い訳をしようとする渚。
そこへ。
「はいはい、君たち、ここはレストランだよ。他のお客さんたちに迷惑だから、いい加減、静かにしたらどうだい」
不意にテーブルの方から、渚たちを諫める声がした。
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