第28話:特殊能力? なにそれ?

 友情とは時にはとてもありがたく、時にとっても迷惑なものだ。

 例えばテスト時に過去問のコピーを貰えたりする反面、出たくもない合コンに駆り出されることもあるという具合に。

 

「はぁ、なんでこんなことになったんだろ」


 渚は合コン会場である小洒落たイタリア料理店の駐車場に車を停め、溜息と一緒に外へ出た。

 時間は夜の8時前。

 大学生の合コンにしてはやや遅めのスタートだが、相手が遠くのキャンパスからやってくるのだから仕方がない。

 

 空模様はお昼過ぎまでぐずついていたものの、夕方からは最近には珍しく晴れ渡った。

 おかげで河川沿いにあるレストランからは、煌々と輝く向こう岸の街の灯りが見える。

 合コンには絶好の雰囲気だった。

 

 それでも渚の気はとことん重い。

 言うまでもなく結衣に黙ってこの合コンに参加しているからだ。

 

 だってこのことを話したら、流れ的に結衣の合コンも認めざるを得なくなる。

 

 そもそも結衣にあんなことを言った以上、渚は合コンに出るつもりなんてこれっぽっちもなかった。

 しかし最終的には健斗に押し切られるような形で参加を承諾してしまったのだ。

 

 決まり手は健斗渾身の土下座である。

 

「渚先輩、こんなところで合コンしたら神戸さんにバレるんじゃないんですか?」

「そうそう。こういうお洒落な店、神戸さんにぴったりじゃないスか。お店の中でばったり出くわして修羅場とか勘弁してくださいよ?」


 一緒に車に乗せてきた、書道研究室の後輩ふたりが店の外観を物珍しそうに眺めながら訊いてきた。

 

「うん、結衣とは一度ここに来たことがあるんだけど、あんまりお気に召さなかったみたいだからきっと大丈夫」

「へぇ。こんなにお洒落な店なのに?」

「確かにお洒落だけど、だからこそうちの学生たちは気合の入った合コンでは必ず使うんだ。こんなに雰囲気のいい店は、この辺りだと他にないからね。でもそういう目的で使う人が多いと、どうしても店内が騒がしくなっちゃうでしょ? 結衣が言うには食事をするにはうるさすぎるんだって」

「はー、さすがはお嬢様ッスね」


 まぁ、逆にもっとうるさい居酒屋とか、客の出入りが激しい牛丼屋とかは物珍しいみたいで結衣のお気に入りなんだけど、とは彼女のイメージを守るためにも言わなかった。

 ただ、そういう意味でも今回のお店は安全だと確信できるのは正直助かる。

 

「でも神戸さんがいるのに渚先輩が合コンに参加してくれてホント感謝ッス! なんせ渚先輩には例の特殊能力がありますからね!」

「特殊能力? なにそれ?」

「健斗先輩が言ってましたよ。渚先輩は付き合っている子のランクが高ければ高いほど、それに負けない可愛い子を引き寄せる能力があるんだって」

「はぁ!?」


 渚が素っ頓狂な声を上げた。

 気付かぬは本人ばかりとはまさにこのことだ。

 

「お、健斗先輩たちも来たっスよ!」


 渚のカノジョを寝取られ続ける本当の理由、その発端が話題になったにも関わらず、話はあっさりと打ち切られてしまった。


 だがそれも仕方がない。

 そんな馬鹿みたいな話、渚は勿論のこと、後輩ふたりだって本気で信じちゃいない。


 信じる者がいるとするならば、それは実際にその特殊能力で心をすり減らされた歴代のカノジョたちだけだろう。


 もしこの時、渚がこの話を信じていたら結衣の機嫌はかなり直っただろうに。

 しかし運命は機嫌が直るどころかもっとややこしくなる方向へ賽を投げ入れたのだった。

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