第24話:大切なカノジョ
チャームを交換しようと騙されて連れ込まれた路地裏。
強気に出たものの、さすがに身の危険を結衣は感じていた。
それがどうだ、あっという間に三人の男たちを渚が返り討ちにしてしまった。
金髪男は腹を押さえ、ひとりは腰に手を当て、ナイフを突き出してきた男は足を抱えながら、皆、無様に悶絶して転がっている。
結衣とて護身術の心得はある。
でも、さすがにこの短い時間でここまで無力化出来る自信はない。
「すごい……先輩がまさかこんなに強かったなんて」
「神戸さん……」
「身体つきは華奢なのに。さっきのは合気道ですか?」
「神戸さん……」
「ホント、びっくりで」
「結衣!!」
渚が結衣の名前を呼んだ。
それも結衣がこれまで聞いたことがない強い口調で。
これにはそれまで興奮してまくしたてていた結衣も思わず口を閉じた。
「結衣、よく聞いて。今回は何とかなったけど、これからはよく知らない男の人にほいほい付いていっちゃダメだよ」
「は、はい。ですけどあれだけ強い先輩と一緒なら」
「ダメ! 大学に入ってから全然稽古とかしてないんだから、かなり身体が鈍ってるんだよ。今のだって高校生の頃の僕なら一息で終わらせたのに」
「……先輩、なんかどこぞのニュータイプみたいなことを言ってますね?」
「とにかく、どんなことがあっても僕は結衣を守るつもりだよ。だって結衣は僕の大切なカノジョなんだ。でも、いつも上手く行くとは限らない。だから結衣ももっと気を付けて!」
「…………」
すごく渚が怒っている。
なのに不思議と結衣は嫌な気持ちにならなかった。
いや、むしろ心が妙に温かくなってくる。
何故だろう。
とても自然に渚が自分の名前を呼んでくれているからだろうか。
勿論それもある。
だけどそれ以上に自分を『大切なカノジョ』としてダメなところはダメと叱ってくれるのが、結衣にはなんだかとても素直に嬉しかった。
「結衣は自信家だからなんだってどうとでもなると思ってるよね? でも世の中にはどうにも出来ないほど危険なことがいっぱいあって……って結衣、ちゃんと聞いてる?」
「……え? あ、はいはい、聞いてますよ」
「全然聞いてない!」
「嫌だなぁ、聞いてますって。あ、それより先輩、早く戻りましょう! チャームの交換ができなくなっちゃいます!」
「だから今はチャームとかどうでもよくて」
「どうでもよくありません! ここでもたもたしていて交換出来なかったら、先輩のせいですよ!」
「ええっ! 酷くない、それ?」
「酷くありません! 先輩もこの人たちみたいになりたくなかった、さぁ早く!」
この人たちみたいにって、やったのは自分なんだけどなと渚は反論したくなった。
が、出し抜けに結衣が腕を絡ませてきたので、一瞬言葉が詰まった。
逆に結衣は渚の腕を手にしながら、さっきのことは本当だったのだろうかと疑問に思ってしまう。
だって筋肉質とは無縁な、まるで女の子みたいな華奢で綺麗な腕。
こんなのでガラの悪い男を三人も、あっという間にのしてしまったなんてとても想像できない。
おまけに。
「ちょっと結衣、話はまだ終わってない……って、うわぁ!」
絡めた腕でぐいっと引っ張ったら、渚はお説教どころかその両足も踏ん張りが効かず、結衣になされるがままになってしまうのだ。
「さぁ、戻りますよっ!」
それが妙に嬉しくて、楽しくて、結衣は声を張り上げる。
路地裏を出ると、世界はなんだかとても輝いて見えた。
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