第4話:下手なんだろうなぁ
「私、渚先輩なら付き合ってもいいかなって」
新歓コンパで告白された渚。
もし渚がもっと早く出会っていれば、この告白を受け入れていたかもしれない。
が、今はそんな気になれなかった。
なんせ残されたチャンスはあと1回。
もし次の子も寝取られたら、渚は
だからここは慎重に。
せめて寝取られる原因を突き止めるまでは、女の子と付き合うのはやめておくのが無難だろう。
となれば、ここはどうやって女の子を傷つけずに断るべきか。
「うーん、それはオススメできないなぁ」
そんなことを渚が考えていたら健斗が横から口を出してきた。
「どうしてですか、健斗先輩?」
「だってこいつ、大学では有名なヤリチンなんだぜ!」
女の子が「えー!?」と可愛らしい目を丸くする。
「健斗、ひどいよ。僕、そんなんじゃないって」
上手く告白を躱せたのは良かったものの、それにしてもあまりに酷い言われ様。
慌てて渚はヘッドロックから抜け出すと抗議した。
「ウソつけ。この一年間でお前、何人の女の子と付き合ったよ? 両手の指じゃ足りないだろ!」
「そんなことないよっ! ……ギリギリ、足りる」
「な? すごいヤリチンだろ?」
墓穴を掘った渚はぐうの音も出ない。
心なしか自分を見る女の子の目が、さっきと少し変わったようにも感じた。
「でも渚はホントにいい奴なんだ。だから女の子にモテるのは分かる。でもそれだけフられるってことはさ、きっと致命的に下手なんだろうなぁ」
「下手?」
「そう、多分こいつめちゃくちゃエッチが下手なんだと思う」
「なっ!? ちょ、健斗、何を言って」
「だってお前、それぐらいしか理由は考えられないだろ? なんせこれまで付き合ってきた女の子全員、他の男に寝取られて別れてきたんだから」
「え? 渚先輩、彼女さんを寝取られたんですかっ!?」
「そうなんだよ。だからエッチがへたくそすぎて愛想尽かされたとしか。あ、待てよ。もしかしたら何か特殊な変態プレイを要求して――」
そんなことないよっと渚が反論しようとしたその時だった。
渚は不意に視線を感じた。
目の前の女の子、ではない。彼女は健斗の始めた渚の下ネタ話に何故か興味津々と聞き入っている。
それに感じた視線はもっと遠くから……。
「……あ」
見つけた。
テーブルのずっと向こう側、男たちに囲まれて談笑していたお嬢様一年生が、こっちをじぃっと見ていた。
何故彼女が見ているのだろう。
もしかしてこっちの話が聞こえたのだろうか?
渚がなんとも居心地悪く感じながらもお嬢様を見ていると、相手もこちらが見ていることに気が付いた。
一瞬、驚いたような表情を浮かべる彼女。
でも、すぐにふっと口元を緩めると、もう渚には興味がないとばかりに背を向けてしまった。
その様子に渚は頭を抱えたくなった。
最後のあの嘲笑めいた微笑みは、絶対こっちの話が聞こえたからだ。
出来たばかりの後輩に早くも馬鹿にされるなんて……。
渚はあまりに自分が情けなくて、泣きたくなってきた。
「……で、マジでどうなんだよ、渚?」
「……え?」
渚に健斗が問いかけてくる。
「だからお前がカノジョにフられる理由だよ。俺はお前が女の子に『オシッコするところを見せてくれぇ。いや、むしろ僕にかけてぇぇぇぇ』ってお願いしてドン引きされたのが原因なんじゃないかと疑ってるんだけど」
「んなわけないよっ! 健斗は僕をなんだと思っているのさ!」
健斗のアホな妄想のおかげで泣きたい気分が少し吹き飛んだ。
渚はゆっくり立ち上がる。
「おっ! もしかして怒っちゃった、渚?」
「怒ってないよ。ちょっとお手洗いに行ってくる」
そう言ってチラリとお嬢様の方へ目を向ける。
彼女はそれまでと同様、取り巻き連中との会話を楽しんでいた。
(はぁ、きっと軽蔑されちゃっただろうな)
別に彼女とどうにかなろうという気はないものの、せっかく出来た後輩に最悪な第一印象を持たれたのはやっぱり辛い。
失恋とのダブルパンチで、トイレへ向かう足取りも酒を飲んでないのにフラフラと揺れる。
おかげで「ありゃあ逆に女の子へかけて喜ぶタイプだな」と健斗がさらに酷いことを言われているのを、つい聞き漏らしてしまった渚であった。
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