「ちゃんと送ってきたの」恵子が家に戻ってきた疾風にきいた。

「駅前のホテルだからすぐわかったよ」

「ホテル?」

「ここじゃないよ、温泉のところ」

「電車賃どうしたの」

「出してもらった」

「あのね、あんたは男で、あの子は女の子」

「しかも、わざわざこんなところまで来てくれたのに」

「金なんて持ってねえよ」

「そうだね。渡さなかったあたしが悪い」

 そう言って恵子は台所に戻る。

「あいつ、この辺にいるのかな」

「誰もしゃべっていないんでしょう」

「いくら鼻が利くからって、ここはわからないはずよ」

「それじゃどうして、あの人はここに来たの」

「万が一ってこともあるからね」

「もしかしたら、あんたに会いたかったんじゃないの」

 恵子にそう言われて疾風はニヤッとする。

「俺、東京の高校に行こうかな」

「行きたければどうぞ」

「いいのかよ」

「入れる高校があるならね」

 疾風はちょっと頑張ってみようかと思った。東京にいるときだって成績は良かったわけだし。それにしても、あいつは変わってない。振り回すだけ振り回して、消えちゃうんだ。

「疾風、翼ちゃんの高校は東京じゃないよ」

「疾風君が東京に来たら、いつでも会えるね」

 疾風は別れ際の翼の言葉を思い出していた。

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