9
「ちゃんと送ってきたの」恵子が家に戻ってきた疾風にきいた。
「駅前のホテルだからすぐわかったよ」
「ホテル?」
「ここじゃないよ、温泉のところ」
「電車賃どうしたの」
「出してもらった」
「あのね、あんたは男で、あの子は女の子」
「しかも、わざわざこんなところまで来てくれたのに」
「金なんて持ってねえよ」
「そうだね。渡さなかったあたしが悪い」
そう言って恵子は台所に戻る。
「あいつ、この辺にいるのかな」
「誰もしゃべっていないんでしょう」
「いくら鼻が利くからって、ここはわからないはずよ」
「それじゃどうして、あの人はここに来たの」
「万が一ってこともあるからね」
「もしかしたら、あんたに会いたかったんじゃないの」
恵子にそう言われて疾風はニヤッとする。
「俺、東京の高校に行こうかな」
「行きたければどうぞ」
「いいのかよ」
「入れる高校があるならね」
疾風はちょっと頑張ってみようかと思った。東京にいるときだって成績は良かったわけだし。それにしても、あいつは変わってない。振り回すだけ振り回して、消えちゃうんだ。
「疾風、翼ちゃんの高校は東京じゃないよ」
「疾風君が東京に来たら、いつでも会えるね」
疾風は別れ際の翼の言葉を思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます