徹は丘の上から港をながめている。誰かとここに来たような気がする。徹は考えていた。別にどうでもいいことだけど。

「あたしだよ」って目の前に現れたところで今の自分とは何のかかわりもない。

「本当かな」

 誰かのつぶやきが聞こえた。徹は後ろを振り向く。

「帰ってないみたいなの」

「誰が」

「徹さん」

「いいのよ、あいつってそういうやつだから」

 邑子はベッドから起き上がってスウェットの短パンをはいた。そして、床に散らばっていたTシャツの中から一つ選んで腕を通す。

「翼ちゃん、そのへんにある物、勝手に着ていいから」

「下着はそこの引き出し」

「サイズ合いませんよ」

「そうかな」

 食卓には朝食が並んでいる。

「すごいね」

「一応、次期女将ですから」

「決まってるの」

「あたし先にシャワー浴びてくるから」

 翼は大きめのTシャツを選んで頭から被りギターを取り出して弾きはじめた。

「どこに行っちゃったんだろうね」翼はギターに話しかける。

 頭にタオルを巻いて邑子が部屋に戻ってくる。

「ちょっと当てがあるんだ」

「ごはん食べたら、行ってみよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る