疾風が夕飯の時に知らないおばさんに声をかけられたと言う。恵子は智美のことを思い浮べた。智美には特に何も言っていない。自分たちの居場所が知れてもしかたがないと恵子は思う。有村の家も疾風には帰ってほしいのだろう。恵子の離婚も成立していないはずだ。

「おばさんはないんじゃない」邑子が恵子に言う。

「母親の年齢に近い女の人はおばさんなのよ」

「あたしお姉さんとそんなに年近くないよ」

 邑子は恵子の夫の末の妹。

「疾風はあたしのこと覚えてないのかな」

「あなたが変わったのよ」

「年を取ったってこと」

「もしかすると、あの子にとってあなたはずっと高校生のお姉さんなのかもしれない」

「そうか、あたし高校を卒業してからあの家に寄り付かなくなっちゃったものね」

「お姉さんとはよく会ってたけど」

 邑子はバックの中から封筒を取り出した。

「あんな兄貴とは別れちゃった方がいいよ」

 封筒の中身は離婚届。

「智美さんからお姉さんが疾風と二人でいるって聞いて」

「あの男が一緒なら来る気はなかったのよ」

 疾風が帰ってくる。

「疾風、邑子ちゃんだよ。わかるでしょ」

 疾風は軽く頭を下げて廊下を通り過ぎる。

「着替えたらこっちに来なさい。ごはんにするから」

「疾風。あんた、あたしのことをおばさんって言ったんだって」

「叔母さんに違いないだろう」

 奥から疾風の声が聞こえた。

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