徹は人通りのない駅前に降り立った。駅前の通りにはビルが並んでいるけれど、ほとんどシャッターが下りている。徹にとっては見慣れた光景。徹は駅前の食堂に入ってみる。細々と営業している感じ。昼時でも客はいない。カツ丼とざるそばを注文する。

「そばはもりでいいかい」

 白髪頭で細身のおじさんが徹に尋ねた。

「海苔が切れちゃってるもんで」

 奥ではおばちゃんが徹を見て申し訳なさそうに笑う。

「かまわないですよ」

「おにいちゃん、道路工事の現場に来たのかい」

「募集の広告みたから」

「あそこは行かない方がいいよ」

「そうなの」

「いい噂、聞かないんだ」

 徹は街に出てみた。それなりの地方都市。以前の活気の残骸があちらこちらに見えた。あんなおじちゃんまで見ず知らずの自分に世話を焼くってことは、道路建設の現場にはいかない方がよさそうだ。温泉街まで行ってみようか。下働きがあるかもしれない。そんなことを考えながら歩いていると徹は人気のない駅前に戻っていた。

 売店でビールを買い、駅前のベンチに腰を下ろす。ガランとした大通りが徹の前に広がっていた。しばらくして、徹の視線を何かが遮る。

 ギターを抱えた女の子が歌いはじめていた。誰も聞いてないぞ。徹はあたりを見渡してみる。女の子はそんなことを気にしている様子もなく歌い続けている。

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