旅立ちⅡ
阿紋
1
恵子は加工場の仕事を終えて家に帰ってきた。いつもどおりの乱雑な部屋。そのうち片付けなければと思いつつジャンバーを脱ぎ捨て、台所の流しに放置された食器を洗いはじめる。
「これが終わったら洗濯か」誰もいない家に恵子の声が響く。疾風は今日も部活で遅いだろう。ひと段落したら買い物にも行かなければならない。恵子は思い出したように冷蔵庫をのぞいてみる。
「なんで男の子なんて産んだのだろう」
疾風が生まれたときの義理の親たちの喜ぶ顔が浮かんだ。そして、安堵した自分のことも。
「ねえ、恵子じゃないの」
恵子は智美に声をかけられた。
「何してるの、こんなところで」
「旅行?」
恵子は智美を見てにっこり笑った。
「疾風君は元気なの」
「元気なだけが取り柄かな」
「あれからずっとここ」
「いろいろ巡って流れ着いた」
「一緒にいるの」
智美は不安気に恵子に尋ねた。
「あの人は本当に流れる人だから」
「そうか」
「お土産買うの」
恵子は自分たちを見ている女性たちに気づく。
「案内するよ」
恵子は智美の手を引いて女性たちのほうへ歩いていく。
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