第12話リップクリーム
「エルテさん?!」
俺がエルテの名前を叫ぶ前に、なぜか顔を真っ赤にさせたエルテは、俺の腕の中の存在の状況に気が付く。
「カケルぅ! どうしたんだぁ! その子ぉ! 心臓の大動脈が切られてるじゃないかぁ!」
「ど、どこから出てきた? このババア?」
それには、当然、アニキも戸惑う。
「すぐぅ! これでチィウゥしろぉ!」
そんなアニキを脇目に、エルテは、俺におもむろに細いステッィクのりの様な物を渡してきたが、それはどう考えてもリップクリームにしか見えなかった。
「えっ? どういう事ですっ?」
俺は、状況が状況だけに、頭が真っ白だった。
「これはぁ! 私がさっき開発したぁ! どんな傷も癒す魔法のクリームだぁ!」
「クリーム?!」
「そんなことはいいからぁ! 早くぅ! チィウゥしなぁ! 死んだら元も子もないよぉ!」
「はは、はい!」
そして、そう怒鳴られた俺は、慌てて、リップクリームを自分の唇に塗ったくり、間髪入れず、アカリの唇に押し当てる。
「はぁぁぁぁ!?」
それを目の当たりにして、エルテの顔が一瞬で青ざめた。
「か、カケル?! ああ、あんた?! 何しとんの?!」
「な、何って? エルテさんがチュウしろって?」
「私は、そのクリームで彼女を治癒しろって言ったんだよ!」
「治癒!?」
その時の俺は、分からなかったのだ。
エルテが酒に酔っていて、呂律が回っていなかった事を。
まさかこのリップクリームが、傷口に直接塗るものだったって事を。
この世界でキスをしたら死刑だって事を。
ただ、味わった事のない柔らかい感触は、俺をドキドキさせてやまなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます