第6話具象と抽象

 あれから十五分。


「どう? カケル君? 誰かいる?」


 俺たちは、再び、さっきの路地裏に恐る恐る戻ってきたが、そこには幸運な事に人の姿は無かった。


「いや、誰も居なそうだ……」


 それどころか、


「あれじゃない!」


 アカリがそっと指さした方を見ると、道端にまだ俺の金貨袋が残っていたのだ。


「本当だ!」


 そこで俺は、慌ててその幸運に飛びついた。


「やったね。カケル君」

「いや……これは、俺のじゃない……」


 しかし、それは決して俺の金貨袋じゃなかった。

 当然嫌な予感がした俺たちは、すぐにそれから離れようとしたが、残念ながらその時には手遅れである。


「逃げろ?! アカリ?!」


 なぜなら俺が叫ぶ前に、その金貨袋の横から腕だけが一本にゅるっと飛び出してきて、俺が金貨袋に伸ばした手を掴んだからだ。


「クックックック……。やっぱ戻ってきたか……」


【いいかい。カケル。魔法には三タイプある。具象と抽象と……】


 その瞬間、俺は、この間、エルテに教わった事を思い出していた。


「さて、もう逃げられねぇーぞ」


【もし相手が具象なら見えるものを信じな。抽象なら逆に見えるものは信じちゃいけない。どちらでもないならあきらめて逃げな】


 だが、それは対処方法を間違わなければ、まだ、俺たちにも希望が残されているという事を意味していた。

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