ブラフマー

 ブラフマーはインド神話(ヒンドゥー教)において重要な神である。なんせ「創造」を司る神様なのだから、重要でないはずがない。

 しかしながら、ブラフマーはヒンドゥーにおいて重要視されていない。と言うか、端的に言うと人気がない。何故なんだろう。


 創作作品において神様とか神話を作る時、たいてい真っ先に考えるのは「主神」であろう。キリスト教のような一神教であればどうでもよいが、多神教(創作作品の多くは多神教な気がする)であれば重要でないはずがない。アイドルグループで言うとセンターなわけで、そのグループのいわば「顔」なわけだ。

 主神の「属性」は「なんかすごい」ものが多い。何となくだが太陽か、それに関連するものが多い気がする。太陽は空の象徴であり、エネルギーの象徴であり、生命や出産を彷彿とさせる。太陽の恵みがないと豊穣もないので農業的なイメージもある。「太陽神一覧」なんてものがWikipediaにあるぐらいだ。

 これは特に古代信仰の対象としてはわかりやすいからであろう。


 ところで、文化が発展し、知識が増えてくると人間はこういう疑問を抱く。

「我々はどこから来たのだろう」

 厨二的なアレではない。あなたは幼い頃、こういう疑問はなかっただろうか?

「自分はどうやって生まれたのか」というやつ。両親がチョメチョメして出来るわけで、実際に自分(ら)で生産した人もいるでしょうからアレなのですが、ちょっと知的な人ってそこからさらに疑問を抱くわけですよ。

「自分が親から生まれたのはわかった。じゃあ親は? 親の親の(略)って遡っていったら、人間はいつ人間になったのか」

 で、さらに遡って生命はどうやって生まれたのか。地球は。太陽は。宇宙は。

 みたいな。


 一般的には「この宇宙」はビックバンで生まれたという。ビッグバン以前は「世界」には時間も空間もなかったという。最近ではマーベル的なSFではなく、真面目に「マルチバース」(多元宇宙)が論じられているという。

 宇宙の外には違う宇宙があるとか……人間の想像力の範疇を超えてなお、人間は考えているのですが答えは当然わかりません。

 でも、ここに自分はいるわけで、時間も空間もあるし「それ」は誕生してるわけで、遡れば「最初」があるはず。という、飽くなき探究心(しつこい、とも言う)が「創造」という概念を生んだわけであります。


 なんかよくわからんもんは、神様が作ったんだよな。

 じゃあ「神様」は誰が作ったんだ?

 ……えっと……アレだよ!「創造」の神様がいるんだよ!


 こうやって「創造神」は創造されたのです。


 えっ、じゃあ「創造神」は誰が創造したの?

 とか言う人には「空気読み。」というタイトルのゲームがあるのでプレイしてみるといいと思うよ!


 さて、例によって前置きが長くなったがインド神話に登場するブラフマーは「創造の神」である。

 創作作品において「創造神」は珍しくないが古代信仰においては珍しいと思う。何故なら「創造」という概念自体が、結構厨二……いや、高度だからである。最初にちょっと語ったが、天空とか太陽とか、ざっくり「全知全能」なんてぶん投げてる事が多い。個人的には「全知全能」と書いて「あり得ないもの」と訳すんですけどそれはどうでもよい。そう考えたら「全知全能」も結構厨二だよね。


 かくいうブラフマーも、実は最初から創造の神だったわけではない。なんというか、概念? だったらしい。

 原文読んでないので詳しくはわかりませんが、思うに「神様はどうやって生まれた」的なウザいツッコミボーイアンドガールに対抗するために生まれた、なんかよくわからんもの……エネルギー的な? そんなやつだよ。そっからある時に、なんかこう……もやもやしたのがふわっと集まって神様が産まれた……というと生々しいから顕現されたんだよ。これが「創造」ってやつだよ、うん。

 みたいな。(盛大に脚色してお送りしております)


 そう言う説明をされた民衆は盛大に「?」が浮かんだだろうが、聞かれた偉い人も困ったに違いない。王様はきっと、偉いシャーマンだか神官だか長老だかに尋ねたんだろうけど、彼らだってわからない。わかるわけがない。宇宙がいかにして誕生したかを、また「外側」がどうなっているのかを尋ねられても現代科学者が答えられないように、それはどうあっても「わからない」のだから。

「わからない」事を「わからない」と言うのは恥ずかしいと言うか沽券に関わるので、科学者のほとんどは「ビッグバンが~」とかなんとか答えるだろう。

 そんなコトがあったら、追加でこう聞こう。

「本当に?」

「わからない」という言葉が返ってきたら、その人は正直で誠実です。話逸れた。


 ともあれ、わからんものはわからんけど見栄とかそういうので「ブラフマンとかいうのがあってね、それがこう……ふわっと(略)」みたいな説明で煙に巻いたまま時は流れた。「あー、偉い人もわからんのだな」と皆が察して生暖かい目で見守っていたけど、なんかそれでは説明がややこしい(面倒くさい)とちょっと賢い人が閃いた。

 他の神様と同じで、ブラフマンっつーかブラフマーっていう「神様」がいるって事にすりゃいいんでね?

 と、隣の家の二番目の息子の太郎が言ったそうな。嘘です。

 脱線するけど「太郎」の「太」って一番目的な意味なんだって。でも世界のイチローは次男だけどイチローなんだよね。隣の家に塀が出来たってさ。へー。


 こうして「概念」に「人格」を与えられて誕生したのがブラフマーなのである。

 そんな経緯から生まれたせいか、曖昧すぎてインド人にはなんかしっくりこなかった。いやだって、ルドラとか「暴風」でかっけぇし、アグニとか火でインドラとか雷だぜ?かっけぇよね。ヴァルナは水、ヴァーユは風なのは……ちょっと地味だよね。派手でかっけぇ方がいいよね、と言う事でそっちの方が人気が出る。

 そう考えたら古代インド人って結構ヤンキー気質だよね。



 そうしてインド神話は中期に突入する。

 外来の宗教と従来の信仰がぶつかりあったこの頃、インド界隈でもおそらく「どの神が一番偉いのか」とかいう問題が発生したのだろう。

 人気があったのはシヴァ(ルドラ)(不良)、ヴィシュヌ(正義の不良)なのだがまぁなんかガラが悪い。破壊神が主神ってインドやばくね?

 じゃあヴィシュヌを主神にしたら良いでしょ? や、でもやっぱシヴァはかっけぇし(略)


 ここでインド人は「トリムールティ」という概念を発明する。

 日本語的には三神一体。三神は同一であり、これらの神は力関係の上では同等であり、単一の神聖な存在から顕現する機能を異にする3つの様相に過ぎないというヒンドゥー教の理論……らしいけど、またそんな感じで煙に巻こうとしたのでしょう。


「三神」に何を選ぶのか、シヴァとヴィシュヌは当確なんだけど、あと一人……そこで白羽の矢が立ったのが地味子ブラフマー。

 三人組アイドルグループに一人、地味なのを入れることで他二人が際立つ戦略。誰とは言わない。調べたら死ぬほどいたので面倒くさくなって詳細見てない。


 ブラフマーの属性は「創造」だった。

 大人気の不良シヴァは「破壊神」。

 あ、だったらヴィシュヌは「維持」にしようぜ、という感じでヴィシュヌ=維持神になったんじゃないか説を具申する次第であります。


 そんな感じで「最高神」に就任したブラフマー閣下ではありますが、バーター的なアレで最高神になったわけでして、見えない所で銃口突きつけられつつ「あんま目立つなよ?」という感じなわけでして、ブラフマーは創造の神で最高神という、厨二的な想像の範疇では最高の属性を持ちつつも地味で目立たなくて際立つエピソードもなくて、他の神様のエピソードに相談役的なポジションでちょっと出しかしていないのです。


 なんしかWikipediaで

 シヴァ(12スクロール)

 ヴィシュヌ(7スクロール)

 の所、ブラフマーは2.5スクロールぐらいなのである。

 ※PCで閲覧・おおよその画面数

 挙げ句に「インドでブラフマーを主として奉る寺院は多くない」と書かれる有様。あまりに不遇。いっそ中国あたりの方がまだ人気あるそうな。

 日本仏教では「梵天」なのだが、地味デスヨネー。


 いっそ「梵天丸もかくありたい」の方が有名かもしれない。

 そういえば「梵天丸」の「梵天」って梵天だよねぇ。ブラフマーだよね。

 仙台の人、もっとブラフマーを敬おうぜ!


 ※梵天丸=伊達政宗の幼名

 ※「梵天丸もかくありたい」=大河ドラマ「独眼竜政宗」で用いられた名ゼリフ


追記

 ヒンドゥー教には大きく4つの宗派があるそうだ。(細かいのはいっぱいある)


 ヴィシュヌ派(主にヴィシュヌを信仰する)

 シヴァ派(主にシヴァを信仰する)

 シャクティ派(シヴァ派の分派。シヴァ神の妃の性力(シャクティ)に対する崇拝を特徴とする)

 スマルタ派(代表的な5神、ヴィシュヌ、シヴァ、シャクティ、ガネーシャ、スーリヤを最高神とする)


 ……ブラフマーの扱い、ちょっと可哀想になるくらい酷ぇ……。

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