第7話待ち遠しい

 黒崎さんとLINEを交換してから毎日のようにやりとりをするようになった。

 内容はTwitterと同じようにたわいもないものだった。

 ただTwitterは不特定多数にむけての独り言に対してLINEはある特定の人物に対してだけなので意味合いが違うと思う。

 私は隙を見つけてはスマートフォンの画面を眺め、彼からのLINEが届いていないか確認するようになっていた。

 そのおかげでスタンプというものをいくつか購入した。

 かわいらしいものがいくつもあるので迷っちゃうわね。

 時にはスタンプだけでやりとりもした。

 それだけでもかなり楽しいものよ。

 本当に黒崎さんからのLINEは待ち遠しいわ。



 ノベルズマーケットから一週間が過ぎようとしていた。

 黒崎さんだけでなく玉子かけごはんさんこと珠美さんともLINEやTwitterのダイレクトメールでやりとりするようになっていた。

 珠美さんはイラストを描いているらしくてかなりの腕前だ。ある時私をイメージしたイラストを送ってきてくれた。

 かなりの美人に描いてくれていた。

 うれしいわね。

 私は嬉々としてそのイラストをTwitterとLINEのアイコンにした。

 娘の智花がそのイラストをすごくうらやましがった。

 今度、玉子かけごはんさんにお願いして智花もかいてもらおうかな。


 その日の朝、珍しく家を出るのが遅くてすむということで夫が朝食をとっていた。

「あのリビングに置いていた本はなんだ?」

 と孝文はきいた。

 

 しまった、イベントで購入した同人誌を出しっぱなしにしてしまっていた。

夫はこういうのにうるさい。

 リビングなどはモデルルームのように綺麗にしていないと気がすまない。

 チラリと顔をみると眉をよせていた。

 これは機嫌が悪い証拠だ。

 ああっ、面倒なひとよね。


「あっごめんなさい、直ぐにかたづけるわ。あれはね知り合いが作った本なのよ。ゆずってもらったの」

 私は言い、リビングにある同人誌を胸に抱きしめる。


「なんだ、素人の作った本か。そんなくだらないものを買ったのか」

 夫は言った。


 私には言葉を吐き捨てるように見える。

 そんな言い方ひどいわ。

 夫も建物という物をつくる創作者なのにどうしてこの本たちのことをそんな風に言えるのだろうか。

 プロなら何を言ってもいいのだろうか。

 あなたも物をつくる創作者なのに。

 私は体温が下がっていく気持ちがした。

 あの本は黒崎さんと珠美さんがそれこそ心血を注いで作った本だというのに。

 たしかに商業作品ではないけど私にはこの本はどんな本よりも大切だ。だって黒崎さんと出会えたのはこの一冊があったから。

 この時、私は夫に対するわずかに残っていた感情が一気に冷めていくのを実感した。


 夫が仕事で出かけた後、黒崎さんからLINEの着信があった。


 黒崎豊一

「今度、もしよかったら映画でも見に行きませんか」

 メッセージの下にその映画のURLがはられていた。

 その映画は黒崎さんが以前から見たいとTwitterでも言っていたアメリカンコミック原作の映画だった。


 友希子

「面白そうですよね。いきましょう」

 私は返信した。


 セーラー服の女の子が頭の上で両手で丸をしているスタンプも送る。

 これは珠美さんがデザインして作ったものだ。

 

 既読はすぐについた。

 





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