第4話リアルとの出会い

 建築士の家庭だからといって生活にゆとりがあるというわけではない。

いや、正確には私の自由にできるお金は少ないと言ったほうがいいかな。

 家計はすべて夫の孝文が管理している。

 多分収入はかなりあると思う。

 夫の着ているスーツや腕時計などはかなり高価なものであるからだ。

 いいわね、自分だけおしゃれできて。

 けど、私がもらう生活費は余裕があるとは言いきれない。かなり考えて使わなくてはいけない。

 夫にいわせれば、それが専業主婦の役目らしい。

 もちろん足らなくなれば融通はきかせてもらえるが、レシートを見せれだの家計簿を見せれだの口うるさくなる。

 なので、お金を使わずにすむTwitterやWeb小説なんかは本当にありがたい。


 Twitterに登録してから、二週間が経とうとしていた。

 すでにフォロワーさんは100人を越えるようになっていた。

 もちろんエロ系と投資系はそっとブロックさせてもらいます。

 自由にできるお金は少ないけど、お金には困っていないので。


 その日もてきぱきと家事を済ませ、私はスマートフォンの画面を見る。

 フォロワーは増えたけど、やはりやりとりが多いのは最初に知り合った三人がメインとなっている。


 特に黒崎さんは小説の方も読んでいるので一番やりとりが多い。昔見たアニメや映画の話で盛り上がることが多い。

 時々しまねこ小百合さんも入って、ツリーがかなり長く続くことがある。

 あと癒しなのが玉子かけごはんさんの食事の写真だ。

 いつも美味しそうな写真が投稿されている。

 写真のとりかたもなかなかで、どうやらインスタグラムもやっているそうだ。

 今度そっちも覗いてみようかな。でも私のメインのツールのTwitterだけどね。



 黒崎麟太郎

「次の週末にノベルズマーケットにサークル参加します。もしお時間のある方は遊びに来てください」


 黒崎麟太郎さんがそうツイートした。

 ノベルズマーケットってなんだろう。


 雪

「ノベルズマーケットって何ですか」

 と私は返信した。


 黒崎麟太郎

「文学専門の同人誌即売会ですね。今回僕の作品も出品します」


 雪

「へえ、そんなイベントがあるんですね。なんか楽しそう」

 私はそう返信した。

 

 どうやらそのイベントで黒崎さんは自作の小説を自費で本にして出品するらしい。

 いつもはスマートフォンの小さな画面でみる黒崎さんの小説だけど、手にとれる本になるなら見てみたいな。

 でもたしかその日は夫が休日なんだよね。

 休日は夫が決めたスケジュールですごすことが多い。

 直前に夫が映画や美術館なんかを行くことを決める。

 もし、その日に何か用事を入れると極端に機嫌が悪くなる。

 手をつけられないほどに。

 だから私と智花はそれについていかざるおえない。


 けど、当日、夫は朝になるとスーツに着替え、家を出ようとしていた。

「あれ、今日は休みじゃないの?」

 私はきく。


「ああ、そうなんだが急な打ち合わせが入ってな。帰りも遅くなる。晩御飯はいらないよ」

 そう言い、急いで夫は家をでた。


 夫が家を出たあと、智花は友達とカラオケに行くと言って家を出た。


 降ってわいたかのように時間ができてしまった。

 これは何かの導きだろうか。

 黒崎さんが参加するというイベントに行けるじゃない。


 

 私は服を着替え、化粧をする。

 いつもより念入りにメイクする。私の顔はどちらかといえばくっきりしているようで濃いめのメイクが似合う。

 でも孝文はそれが嫌いなのであまりこんなメイクはしない。

 今日はちょっと特別。

 はじめて会う黒崎さんに綺麗な自分をみせたい。

 スーパーへの買い物と夫に付き合わされる外出以外ででかけるの何年ぶりだろうか。


 私は鏡を見ながら化粧をして、鼻歌を歌っていた。

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