第5話 お互いが片想いの両想いだったんだね

「誰だ、お前!!」


「僕は、朋美さんの彼氏候補です」


「彼氏候補って、まだ学生に見えるんだけど……。朋美さん、アイドル推しなだけじゃなくて、こんな年下もたぶらかしてたの?」


「そ、それは……」


 事実なので、何も言い返せない。


「ますます、結婚しなくてよかったよ」


「おっさん、いい加減にしろよ!! 付き合えなくなった途端に、悪態をつくなんて年齢関係なく最低な人間だろ」


「シュン君……」


「やれやれ、これだから、社会が分かっていないガキは嫌なんだよ」


「……残念だけど、あなたよりは、お金を稼いでいますよ。二十歳になっただけじゃなくて、一生困らないだけのお金の準備ができたから、晴れて朋美さんに告白したんで」


「なっ、でまかせ言いやがって、このガキが!!」


 バキッ!!


「シュン君!!」


 シュン君が殴られたので、私は思わず声を上げた。


「大丈夫ですよ、朋美さん」


 シュン君が私を制止する。


「で、でも、私のためにシュン君が……」


 止め止めなく涙が溢れ出す。 


 自分が傷つくことよりも、シュン君が傷つくことの方が胸が痛かった。


「撮れました?」


「はい、バッチリと」


「な、なんだ、お前?! まさか、今までの様子を撮影してたのか!!」


 シュン君のマネージャーらしき人が、今までの様子を携帯で動画撮影していたようだ。


「別に悪用はしませんよ。朋美さんへの悪態について謝ってくれればね」


「くっ! 分かったよ。謝ればいいんだろ……。……す、すまない、言い過ぎた……」


 さすがにまずいと思ったのだろう、彼は頭を下げて私に謝った。


「別に、いいよ。もう……」


 正直、彼がついた悪態について、私はもう何とも思っていなかった。


 それよりも、シュン君がこんなにも私のことを想ってくれていたことが分かって、そのことの方が嬉しかった。


「もう二度と朋美さんの前に現れるなよ!!」


 シュン君が、そう言うと。


「言わなくてもそうするよ!!」


 彼は逃げるようにレストランから去って行った。


「ありがとう、シュン君」


「こっそり覗き見して、ごめんなさい。それと、朋美さんがバカにされているのを見て、我慢できなくなってしまいました。すみません」


 シュン君が何度も謝る。


「そうだね、覗き見はよくないけど……。助けてくれたのは、嬉しかったかな」


「ほ、ほんと!」


「もう、調子に乗らないの。しかも、マネージャーさんまで巻き込んで」


 私はシュン君のマネージャーさんに一礼した。


「そもそも、私はシュン君の恋愛自体にも反対していたんです。まだまだ、これからも人気が上がっていくアイドルですから。ただ、あなたとの関係を認めてくれないのなら、アイドルは辞めると真剣に言われてしまったので、私としては認めるしかありませんでした」


「……そうだったんだ」


 シュン君は、そこまで真剣に私とのことを。


「マネージャーさん、そのことは黙っておいてほしいと……」


 どうやら、秘密にしておいてほしかった話だったらしい。


「ここまで手伝ったのですから、これくらいは言わせてください。それと、家が隣り同士で親同士も仲が良いとのことですので、マスコミに関係がバレることはないとは思いますが、付き合うのであれば、こっそりと付き合ってくださいね。まあ、その辺はシュン君よりも、朋美さんの方がしっかりとしていそうですが」


「分かりました」


「え、朋美さん、正式に付き合ってくれるの?」


 私が返事をすると、シュン君はすかさずそう言った。


「あ、うん、もう断る理由もないし……」


 彼氏とは別れて、マネージャーさんまで了承してくれたのなら、シュン君と付き合わない理由がない。


「やったーー!!」


 シュン君が素直に喜んでいる。


「ふふ、そんなに私と付き合えるのが嬉しいの?」


 思わず笑みがこぼれる。


「もちろん! 何年片想いしてたと思ってるんですか!!」


 あ、そうか。

 シュン君はそう感じていたんだね。

 

 私もシュン君のことは大好きだったけど、年の差を考えて、推しで我慢しようと片想いしてきたのに――


 実は、お互いが片想いの両想いだったんだね。


 あれ、そういえば。


 いつの間にか、年の差のことを引け目を感じなくなっていた。


 あんなにシュン君に自分は相応ふさわしくないって思っていたのに。


 お互いに想い合っていれば、年の差も超えていけるんだね。


 私は微笑しながらそう思った。


 ◇


「シュン君!?」


「部屋で二人きりの時は俊也しゅんやって呼んでくれるんじゃなかったんですか?」


「そ、そうは言ったけど、動揺すると馴染んだ呼び方が出ちゃうんだよ」


「どうして、動揺してるんですか?」


「だって、俊也が私にキスしようとしてるから」


 そう、私は今、俊也にキスを迫られていた。


「マネージャーさんからは、交際発表は大学を卒業する二年後まで待ってくださいね。って念を押されてるんだけど……」


「お隣さん同士の近所付き合いですよ」


「近所付き合いでキスはしま、うぐっ、ん……」


 そう言い切る前に、私の口は俊也の唇によって塞がれた。


 ちょっと強引だけど、奥手な私にはちょうどいいのかもしれない。


 俊也と口づけを交わしながら、私の心は安らぎに満たされていた。

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隣に住んでいる年下の推しアイドルから告白されたので、付き合っている彼氏とは別れました 夜炎 伯空 @YaenHaku

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