第3話 僕は好きな物を食べてる時の朋美さんの顔が好きだから

「シュン君、やっぱりよくないよ。それに、どこでシュン君のファンに見つかるか分からないし、今日のデートは辞めにしよ」


「もう僕は覚悟を決めたんです。朋美さんが何と言っても、僕はデートを続けますよ」


「シュン君……」


 推しのアイドルのシュン君に、そんなこと言われたら嬉しいに決まっている。


 でも、シュン君の将来を考えたら、八歳も年上の私と付き合うのはよくないことだとも分かっている。


 このまま流されてしまってはダメだ……


 シュン君に今日のデートを断ろうと、私は決意し――


「今日は、朋美さんが大好きなスイーツカルテットのお店を予約してるんですよ。せっかくだから一緒に行きましょ。ね」


 ようとしたけど、予約したお店を断るのは、あまりよくないよね。


「し、仕方がないわね。そのお店だけだよ」


 私は、しぶしぶ、ケーキ食べ放題のお店、スイーツカルテットに行くことにした。


 いや、本当にしぶしぶだよ。


 予約してるのに、急にキャンセルとか良くないから。


「もう、どうして予約しちゃったの。シュン君」


「フフ、だって、朋美さんとは長い付き合いだから」


「え、どういうこと?」


「そういうことです」


 シュン君は満面の笑顔でそう言った。



「わー、ケーキがたくさん!! もう、見てるだけでも幸せーー!!」


 もちろん、食べずに満足なんてできないけど。


 スイーツカルテットは、オーソドックスなケーキから変わり種のケーキ、フルーツタルト、手作りできるワッフル、好きなフルーツを乗せられるパフェ、できたてのパンケーキのために用意されたホイップクリームとフルーツ蜂蜜、それ以外にも様々なデザートが食べ放題の人気スイーツ店である。


 しかも、それらのスイーツに加えて、ミートパスタやカルボナーラ等のパスタ系、スープも各種用意されていて、軽食としても十分に楽しめるお店となっている。


 予約を取るのも簡単ではないはずなのに……


「喜んでもらえたなら、予約できてよかったです」


 シュン君はそんな苦労は微塵みじんも見せずに、私を見ながらニコニコしている。


 それだけども、私の胸はキュンとしてしまっていた。


「じゃあ、時間がもったいないので、取りに行きましょうか?」


「そ、そうだね」


 完全にいいようにやられているのは気のせいだろうか。

 

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 今ある幸せを噛みしめてからでも遅くはない。


 出来るだけ多くのスイーツを食べたかったので、小さいサイズのものから順に、私はスイーツを大量に確保した。



「朋美さんは、本当にスイーツが好きですよね」


「うっ、それを知ってたから、ここを予約したんだよね」


 断れないのを知っていて、ここを予約したのだと、私はようやく気がついた。


「だって、僕は好きな物を食べてる時の朋美さんの顔が好きだから」


「なっ!?」


 昔から知っている顔馴染みとはいえ、推しのアイドルであるシュン君からそんなことを言われたら、ドキッとしないはずがない。


 それに、真っ直ぐに私を見つめているその目は純粋そのもので、本当に私を喜ばせたいと思って、このお店を予約してくれたのだろう。


 そんなことを考えている内に、私の胸は更に激しくドキドキし始めていた。


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