第46話 そろそろ王都に行こう
「そろそろ行かないとだよなー」
忙しい日々を送りながらもリザやダンジョンを手に入れ、ひと段落ついていたクラウがボソッと口に出す。
「チュン?」
「お前も紹介しないとな」
リザがどうした? とこちらを覗き込む。
丸々としたモフモフも、れっきとしたフェニックス。
きちんと紹介しなければ面倒事もあるだろう。
それに後々家族になるであろう……エリーゼに会うのも5年ぶりだ。
立場上リシュテン王国では自由を与えられているクラウだが、国の関係者とは何度か顔合わせをしている。
主に新たな技術を提供する為なのだが、忙しさにかまけて婚約者を放置している事を最近よく口にされていた。
「そうと決まれば行動あるのみだよな!」
このまま考えていても仕方がないし、皆に迷惑を掛けてしまうだろうが父さんたちに相談しよう。
その日の夜、食卓で皆が集まった時に話を切り出した。
……納得行かない。
俺も悪い事をしているなとは思いつつも、街の為に働いてきた。
だが俺の言葉に家族は「やっとか」と言わんばかりの顔を見せた。
形式上ではあれ婚約者としてエリーゼが決まってから5年程、クラウが会いに行く素振りを見せなかったため家族としてもたまに話題に挙げていた。
しかし忙しいからと言うクラウにそれ以上言うことは無かった。
今は領の仕事が忙しく、結婚もクラウが15歳になり成人してから。
それでも本人が希望すれば会う機会を作ろうと親としては考えていた。
政略結婚が基本の貴族でも、満更でもない態度を浮かべていたクラウだ。
だが仕事ばかりの日々を5年程送り、自らは全く話題にも出さない。
もしや忘れてるのではと話を振ればそんなことも無いが、必要以上に興味を出さないクラウを心配していた。
そんなクラウからの言葉を、呆れを含んだ安堵の気持ちで受け取った家族。
最初こそ様々な分野でクラウに手取り足取り手助けをして貰っていたが、ノウハウも出来新たな商品も作り始めている。
領内も安定し長兄ライルも帰ってきた。
丁度いい機会だと思った父テリーは、クラウにこんな提案をしていた。
「半年程王都に滞在しなさい」
テリーの言葉にクラウは驚く。
この領で行われている大半の事業はクラウの発案、指揮で行われている。
10歳になったばかりのクラウだが、この街での扱いは領主並みの扱いをされていた。
そんなものだから、クラウは忘れていたのだ。
まだ子供だという事を。
人の慣れは怖い。
前世の記憶がある分自分が働いている事に疑問も抱かなかった。
疲れはするが、目に見える成果に満足もしていた。
そのせいでこの世界で子供らしい生活を送る事などなかった。
それに不満も無かったが、家族としてはとても大きな悩みだったのかもしれない。
珍しくも望んでいた、領では無いクラウ自身の為の発言に少し安心した家族からの提案だ。
「ありがとう、そうするね」
自分が居ない不安もあるが、素直に受け取ることにした。
その日から各部署に顔を出す機会を減らしたクラウだが、根付いた技術はきちんと回っている。
安心と寂しさを感じながらもクラウは王都に旅立つ準備をしていた。
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