第44話 ダンジョンで得る物は
「なるほどー」
俺はダンジョンマスターであるフレイのスキルである【ダンジョンクリエイト】と睨めっこしていた。
目の前にボードが表示され、階層毎に環境、魔物、素材、宝箱と設定できる。
環境は洞窟や森、山岳や砂漠、果ては火山や海なども設定でき、その場に適した素材やモンスターを配置出来る様だ。
これで自由に食材も素材も取り放題! というのは簡単だ。
しかし今このリシュテン王国はとても順調に成長を続けている。
真神教の影響もあり、王国が生まれた時並みの結束力があるだろう。
人々の生活にも豊かさが増え、経済も活発になっている。
そこでこのジャンダーク領が何でも産出出来る街になったとしたら。
恐らくいい影響よりも余りある悪影響が出るだろう。
現在の産出バランスの全てが丁度良いわけでは無いが、それを簡単に崩すことの出来るこの【ダンジョンクリエイト】を気軽に利用する訳にはいかない、と今の俺は考えていた。
森には肉や植物、山岳で鉱山、海なら魚。
本来その地質特有の名産を生み出す事は、その利権も奪いかねない。
だとしても使わずには惜しいこのスキル。
最も良く使う方法としては、今のジャンダーク領に必要な物を生み出す事と、現状確保の難しい素材を手に入れる事になると思う。
とはいえジャンダーク領も国で一、二を争う発展を遂げている街がある。
必要な物と言えば限定的だ。
「どうしたものかな」
「何を悩んでるの?」
ミラはこちらの考えを分からないようで素直に聞いてくる。
「今手を取り合い発展しているこの国への影響を考えているのですよ」
流石のイオ、聞かなくても分かっているようだ。
「実際この中にある物はどれも魅力的なんだけどね、欲張ると身を滅ぼしそうで」
「だったら私の役に立つ物とかあった?」
ミラは期待した目をこちらに向けている。
ミラが役に立つものと言えば、手がけている化粧品関連の素材になるだろう。
現状化粧水とシャンプー、リンスの開発に成功しているが、更に上を目指すとなると……
「これなんかはどうかな?」
そういうと俺はボードに指を指す。
「クロベニリーフ?」
ミラが目にした言葉を繰り返す。
クロベニリーフ
真っ黒な葉を持ち、暗い場所にしか生えない為発見が難しい薬草。
効能は無いが粉末にし水と混ぜるととても綺麗な黒色になり、肌にも綺麗に塗れる。
鑑定ではこう出ていた。
この世界では化粧という物はあまり発展していない。
肌や髪に対する基本的な化粧品でさえ喜ばれる。
そしてこのクロベニリーフも化粧品として使えるのだ。
黒い水、化粧品。
前の世界ではアイメイクなんかが好まれて使われていた。
乳液のような物はこれから作られるだろうが、そろそろ飾る方も取り組んでいいのではないだろうか。
俺の拙い前世の知識をミラに伝える。
すると初めて化粧水を目にした時のように目を輝かせ、「絶対に作って!」と嘆願された。
クロ以外に、赤や橙、紫などもある。
これを上手く組み合わせればファンデーションやシャドウ、チークなども生み出されていくのではないだろうか。
ただでさえ元が良いこの世界の住人が更に飾られ、それに引き寄せられる男たちが目に浮かぶようだ。
立場の弱い男が更に増えるかもしれないが、恩恵も大きいのだからお相子だろう。
早速様々な種のベニリーフを生やし、一旦スキルと睨めっこするのをやめる。
「もう良いのですか?」
フレイは意外そうにこちらに尋ねて来るが、笑顔で頷いて返す。
必要な物は必要な時に生み出そう。
無暗に争いの種は生み出さない、出来るからと何でもすれば良いものでは無い。
今はリザのもふもふに身を預けられる幸せを噛み締めればそれで良いのだと、俺は納得していた。
後日談だが、このベニリーフから生まれた化粧品は王国のみならず他国にもあっという間に広がり一大ムーブメントが起こった。
世の女性はこの化粧品を使うために仕事に精を出し、かつては男が中心となって行っていた労働にもちらほら増えていったようだ。
煌めく都市には輝きを放つ女性が沢山歩き、化粧という文化は常識レベルにまで定着していくのだった。
美に対する女性の執念は世界をも変えると、世の男性達は鼻の下を伸ばしながら呟くのであった。
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