第42話 守護天使と現代の食事を

「おめでとうございます、無事テイムに成功しましたね!」

 隣で見守ってくれたフレイは早速もふもふし始めた俺を祝福してくれている。



「あひぃわたぉ(ありがとう)」

 顔が埋まっている俺は上手く返事が出来ない。

 だがこの幸せを手放せないので、気持ちだけは最大限感謝している。


 フェニックス、たまらん。

 体ごと抱きかかえると低反発の羽毛で包まれる。

 自然の香りを感じながら暖かな心にしてくれるこの空間は、唯一無二だろう。

 まったく、けしからん。



「あの、そろそろ僕も近づいていいですか?」

 後ろに下がらせていたイオが興味津々に近づいてきていた。



「あんだけもふもふを馬鹿にしていたのに」


「もふもふを馬鹿にはしていませんよ、もふもふに支配されていた貴方を馬鹿にしてたんです」

 真面目な顔をして辛辣なイオ。

 そんな人間にはお預けの罰だ!

 折角気持ちよくなっているのに邪魔をされた俺は再びもふもふしだす。



「かわいいー! 私も触ってもいい? えっと……名前は?」

 ミラにそう言われてハッとした。

 名前をまだ付けていなかった。

 もふもふはいったんお預けだ、しっかりと考えなければ。



「んー……もふっくす」


「初めてクラウの弱点を見たような気がするわ」


「チュン……」

 俺の頭の中を具現化しただけなのだが、ミラとフェニックスはご不満の様だ。



「この子って性別あるの?」


「フェニックスは単体で繁殖できる生物なので、明確な性別はないですよ」

 ミラの質問に答えるフレイ。



「じゃあどちら寄りの名前でもいいのかな。リザってのはどうかな? 復活を表すリザレクションから取って、リザ」


「さっきのより100倍はいいと思うわよ、女性らしい名ではあるけど」


「フェニックスらしい名前かもしれませんね」

 今度はミラからも賛同を得た。

 フレイも概ね賛同な感じがする。



「チュン!」


「お、リザがいいって言ってるようだ」


「言葉がわからなくても、分かりやすい反応ね!」


「ここまで知能がある魔物というのも珍しい物ですね」

 俺達は名前付けで盛り上がっている中、一人だけ違う観点のイオ。

 君はいつでも君のままでいてくれよ。



「じゃあご飯まで時間があるし、少しここで遊んでようか」


「チュン!」


「私も混ぜて!」

 俺とミラはリザに飛びかかるとじゃれ合うようにもふもふし始めたのだった。

 後ろでブツブツと何かを言いながら居るイオは少し怖かったが。





「食事の準備が出来ましたよー!」

 ミシェルがそう声を掛けてきた時に、ハッと現実に戻ってきていた。

 先程まではまだ作り始めだったはずだ。

 恐るべしリザ、恐るべしもふもふ。



「待ってましたよ! さあ皆さん行きましょう!」

 フレイはそう言うと先にテーブルへ向かった。


 そういえばゼロに会いに行くって言ってなかったか?

 割と時間の感覚は神よりなのだろう。

 お互いがのんびりだと会う事も少ないのかもしれないな。



「今日はリゼちゃんの歓迎会とフレイさんの期待もありましたし、奮発して頑張りましたよ!」

 ミシェルがそういって料理を並べていく。



「ステーキには最近栽培が始まったスターベリーのソースを添えています。サラダには新鮮な野菜を使い、細かく刻んだブラックリーフを和えていますよ。それとこれは新作です、前にクラウ様に教えて貰ったグラタンを作りました!」


 スターベリーは酸味と甘味が程よくあり、旨味が凝縮された果物だ。

 様々な美容の商品に使えるとの事で栽培したのだが、味も良い為料理にも採用し始めている。


 ブラックリーフは前の世界で言う所の昆布だ。

 海藻の中でも黒く、正しく料理に活用すれば旨味が詰まった食材は、最近活発になった漁師町との交易で発見された新たな目玉商品である。


 それにしてもグラタンか。

 久しく食べる事の無かったあのグラタンと同じ香りがする。

 テイムが広まり畜産も盛んになる事で上質なミルクを入手出来るようになったのだが、前に教えたグラタンを覚えていてくれたのだろう。


 良く再現できているし、ミシェルの料理人としての腕も素晴らしい。

 それ以上に野外でグラタンを作る事の出来る調理場を簡単に出せるダンジョンマスターが凄い。



「では、いただきます」


「いただきますとは?」

 俺の言葉にフレイが疑問を抱いていた。



「俺の前に居た世界での食材や携わった人への感謝を表した言葉だよ」


「女神様を色濃く感じさせていたのは、そういう事でしたか」

 そういえば全てわかっていると思っていて伝えていなかったが、女神の気配としか言われてなかったな。



「俺の事ももっと詳しく説明した方が良さそうだな」


「いえ、まずは食べましょう。詳しくは後で女神様から聞きますので」

 そういうと返事をする間もなく食べ始めている。

 目の前に美味しそうな料理があるのだから、俺もまず食べよう。



「やわらかっ!? これが本当にあのお肉なのですか!?」

 ステーキを一口食べたフレイは目を丸くして衝撃のまま叫ぶ。



「この野菜も、シャキシャキ、シャキシャキって! この黒いの!? 見た目は異質ですが何とも不思議な触感で!」

 言葉と食べる手が止まらないフレイは一心不乱に食べ続ける。

 そういえば俺もこの世界に来て食事に少し残念な感覚を抱いたっけ。


 あれからポーション活用が広まって、様々な土地で様々な食材を使われるようになり、料理のレパートリー自体も大分増えている。

 食糧の心配もここ数年は全く無く、人々は食を楽しむ余裕も出来ていた。

 当たり前に食べられるようになった美味しい食事も、永い時を眠り続けたフレイにとっては新鮮なのだろう。



「グラタンといいましたか? これは神の食事にしましょう。逸品です、決定です」

 熱々のグラタンをハフハフ言いながらも食べ続けるフレイ。

 神の食事って、関係者だからなんやかんや本当にそう出来そうで怖い。




「ああズルい! 私も食事に誘われた事ないのに!」

 人の集まるテーブルとは違う所からいきなり声が聞こえた。



「女神様!?」

 フレイがそういうと、空間が歪みゼロが現れた。

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