第41話 正しくフェニックス、らしい
「わあ、綺麗!」
「ダンジョンにこんな世界があるなんて……」
ミラはその光景に感動し、イオは驚きを隠さず辺りを見回している。
「クラウ様、私は皆さんにお食事を作ろうと思うのですが」
ミシェルはここでもマイペースに自分の仕事をするらしい。
「実はずっと気になっていたのです! 時折ダンジョン内で美味しそうな食事を食べているのを知っていたので、楽しみにしていますね! あ、料理はこちらで」
フレイは随分と乗り気な様で、フェニックスのテイムよりも優先して空間に調理器具を作り出していた。
余程楽しみなのだろう、それとダンジョンマスターって凄いな。
「で、こんな花畑に魔物を呼び出して大丈夫なの?」
俺はミシェルが料理を始めたのを確認してからフレイに問いかける。
目の前に広がる素晴らしい花畑に、傍らでは料理に勤しむミシェル。
ミラとイオは興味深そうに花畑を回っている。
「敵対せぬよう設定しておりますので、戦いにはなりません。ただクラウ様がフェニックスのテイムに成功するかどうかだけですので安心してください」
「失敗したらどうなるんだ?」
「どうもなりませんよ? そのままダンジョンの魔物として残るだけです。下層は未だ到達されていないので、自由に生活してもらう事となりますね」
伝説級の魔物が自由に生息している下層、という攻略を続ける人類には悲報とも呼べる情報を手にしながらも今は危険が無いという事で一安心だ。
「やれるだけやってみるけど、フェニックスは普通の魔物と同じようにテイム出来るのか?」
「クラウ様の能力とテイムスキル、人柄を見た感じ大丈夫だと思われますよ?」
「人柄?」
「フェニックスなどの高位魔物は様々なプライドや警戒心がありまして、取分けフェニックスは人に対して恩恵の大きな素材を有している為、人を選ぶ傾向があります。欲などが丸見えの人物には近寄りもしないでしょうね」
そういうと過去の事を思い出しているのか苦い顔をするフレイ。
霊薬とも呼べるエリクサーの素材になるのなら、国家規模の争いも何度もあるのだろう。
別個体だとしてもそういう事情や感情が本能的に残されているのかもしれない。
「けどクラウ様は欲丸出しじゃないですか?」
イオはいつの間にか戻ってきたのか失礼な事を言い出す。
「酷い言い様だな」
「もふもふ! もふもふ! このダンジョンに入って何度聞かされたと思ってるんですか」
呆れた顔のイオだ。
「確かにそれも一つの欲、ではありますが。悪意のある物では無いとフェニックスも判断してくれるでしょう」
フレイはそんなやり取りを楽しそうに聞きながら答えてくれる。
この世界が作り直されてからどれほどの時が経っているのかは分からないが、その間フレイは一人でこのダンジョンに眠っていたのであろう。
神達の時間の概念は分からないが、俺なら孤独で耐えられないだろうな。
そう考えるとフレイには優しくしたくなる。
「さあ、料理が出来る前に終わらせてしまいましょうね!」
そんなフレイは今から作り出される料理が楽しみなのかウキウキした表情で作業を始めた。
ディスプレイを弄るような動作、恐らくダンジョンのメニューを操作しているのだろう。
「よし! では出しますよ!」
フレイがそういうと目の前の空間が歪み、一瞬何も見えなくなる程の光が溢れる。
眩しさで目を開けられるときには、既に目の前にフェニックスが立っていた。
「大きい……」
俺の第一印象だ。
見た目は限りなくスズメに近かったので、その大きさに異質さを感じる。
両足で立つ姿は、3m位はあるだろう。
見ただけで分かるほどの厚い羽毛。
なのにしなやかさを感じるフォルムに俺は見惚れてしまう。
「これがフェニックス!」
イオは鼻息を荒くしてフェニックスを観察しだす。
その姿をフェニックスが見たらテイムが失敗しそうな気がしたので、事が落ち着くまでイオには下がってもらう。
凛々しさも愛くるしさも兼ね備えた見た目のフェニックス。
流石高位の魔物だけあり、迫力がある。
敵対して居ればプレッシャーも凄いのだろうな。
「どうも、クラウです」
俺は何故かフェニックスに会釈して挨拶していた。
魔物にそんなものは通用しないかもしれないが、何故かしたくなったのだ。
「チュン」
そんな俺に対して一鳴きして頭を下げたフェニックス。
やっぱり知能は相当高いのかもしれない。
「魔物が挨拶!?」
イオはそれを見て後ろで興奮してる。
もしかして俺の従者より研究者などをやってもらった方が大成するかもしれないな。
「いきなり何だが、俺の仲間になってくれないか?」
俺はいきなりテイムを使わず、話しかけてみる。
知能を持つと分かった相手に有無も言わさず能力を行使しても、いい思いはしないだろう。
実力の差を見せつけてテイムする、のも大事な方法かもしれない。
だが俺はフェニックスと仲良くなりたいのだ。
戦いに行く訳でも研究の為でもない。
一緒にのんびり暮らしたいから、俺はまず会話を試みる。
「チュン? チュンチュン」
首を傾げるフェニックス。
すると何かを訴えかけようと鳴き始めた。
「んー。何かを求めてるのは分かるのだけど」
俺はそんなフェニックスを観ながら考える。
魔物が欲しがるのはなんだ。
そう考えてると、フェニックスはちょこちょこと歩き出し、ミシェルが居る調理場まで行っていた。
「チュン!」
そこで大きく一鳴き。
目の前には今日の料理で使う予定の食材がある。
「食事? ……ああ、成る程」
俺も近づき見てみると、ポーションで質の向上したラッシュブルの肉があった。
ただの肉じゃないと一目で判断したフェニックス……こいつ、食いしん坊だな?
「分かった、仲良くしてくれるならちゃんと美味しい食事を用意しよう」
俺がフェニックスに向かってそう声を掛けると満足そうに目の前で座った。
「ありがとう、【テイム】」
俺がテイムを使うと、すんなり成功した。
テイムの時に発する光が収まると、フェニックスは立ち上がり羽を上にあげ「チュン!」と一鳴きした。
愛嬌もありこちらの言葉も理解して、俺が予定していた魔物よりも更に仲良くなれそうだと嬉しい気持ちに包まれた。
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