第38話 もふもふをテイムしよう!
「よし、ダンジョンに行こう!」
「どうしたのクラウ?」
俺は思い立ったらすぐ行動に移す。
そんなタイミングでライルに声を掛けられる。
「実は最近生活に余裕が出来たせいか、欲が出ちゃって」
「それで何でダンジョン?」
「それは……」
「?」
「モフモフしたいからだ!」
ダンジョンの浅い所にはゴブリンやバッドなど、嫌悪感を抱く人も多い魔物が蔓延っている。
その中でもスライムは我々の生活とは切り離せない魔物として人々に重宝されている。
更に潜ると洞窟らしい雰囲気から一新され森の中のような階層が続くようになる。
そこには犬型、猿型、イノシシから蛇まで、まさしく森の中の魔物達が住まうのだ。
勿論中層となるとそれなりに手強くなる、がしかし、俺には力がある!
ゼロや領地の事で右往左往する日々が続いたが、俺の恩恵で職に就いた住人も多く、主導してくれるテリーにはライルという力強い身内が帰ってきた。
そう、俺にもやっと自由時間が出来たのである。
特に使徒認定を受けてからここまでの5年は周りの為に働き続けてきた。
それにより笑顔が増え、俺はそれなりに満足している。
だが自由に生きよという最初のゼロの言葉通りにはいっていない。
思い付きでアイディアを口に出せば、次から次へと人が集まる。
一つ始めるとあれやこれやと芋づる式に思い出すのだ、俺の無い知識を振り絞り、この世界の人間が再現し、俺が確認する。
そうやってプロジェクトチームが沢山増え、俺はその統括を任されるのだから時間など無い。
俺は蒸気機関や電子関係の知識は全くない。
しかしこの世界には魔法という別の理が存在している。
それを応用した魔道具を作成すると、軍事利用する動きもあるだろう。
無責任かもしれないが、人の欲は計り知れない。
俺やゼロが止めようと動き続けるかもしれないが。発展自体が悪だとは思っていない。
それこそ全てを管理出来るなら神をも超えた存在だ。
俺に出来るのは、守る力を与える事と、奪う必要のない世界を味方に与えるだけだ。
理想論かも知れないが、皆隣人になればいいのにと良く思う。
そういう意味では、今のリシュテン王国は身も心も裕福だろう。
誠実な王が国を統べ、技術も満遍なく行き渡るようにしている。
特に食糧問題は全く起こらず、食事も良くなり心にゆとりを持つ国民が増えた。
それでも欲張る一部の貴族や悪人には、痛い目を沢山見せてあげている。
ゼロが力を取り戻し、頻繁に夢に出て来ては会話をしているのだが、そのついでに国の監視もお願いしていた。
過干渉かと思ったが、特別地上で力を使う訳じゃないので大丈夫らしい。
千里眼ならぬ神眼を使って俺は各地に情報を流しているお陰で、大事になる前に御用になっているようだ。
と、話は逸れたがそんな日々もライルの帰郷により軽減された。
俺にもやっと休みが出来た。
だけど娯楽も多くないこの世界で休みにすることなどあまりないのだ。
物作りなんかは仕事として行っているし、食料に関しても既に俺が手を出す部分はそこまで多くは無い。
裏の畑を弄る程度だ。
そうなると手持無沙汰になる。
あれ、休みって何すればいいんだっけ?
とブラック社畜のような思考になる。
そんな時ふと、前の世界の物語を思い返していた。
主人公と強力な魔物がタッグを組むお話。
その主人公はいつもその魔物にもふもふしていた。
うらやまけしからんと思っていたものだ。
今急ぎで行う事が無い状況で、前の世界の俺の夢を叶えてもいいのではないだろうか?
騒音問題や金銭、飼育に割ける時間などを考えてペットなど飼えなかった昔とは違い、今は条件が整っている。
それにスライムの件でテイムの利点を知った俺は、たまのレベル上げの時に魔物使いの↑に当たるモンスターブリーダーをマスターしていた。
魔物使いと違い、仲間に出来る魔物の種類も増える。
そしてこの職の強みは仲間の魔物の育成を行える点だ。
覚えるスキルに訓練があるのだが、このスキルを使い戦わせると、その戦いに合わせた能力が上昇する。
魔物毎に上限が存在するが、それでも元の倍以上は育つ様だ。
ステータスの確認で知識だけは得ていたが、実践はしていない。
もしかしたら街の戦力として考えられるかもしれない。
だから俺はテイムをするのだ。
もふもふは正義なのだ。
「と、いう事です」
「色々考えてる事はわかったけど、とりあえずふわふわな毛を持つ魔物をテイムしにいくんだね?」
そう言うとライルは少し考えてから俺に伝える。
「じゃあ誰かついていってもらおうか? クラウなら万が一は無いと思うけど、暴走したら困るしね」
ライルは時折自重を忘れるクラウの事を考えて、護衛を付ける様だ。
選ばれたのは部下であるイオ、姉のミラ、そしてメイドのミシェルだ。
イオはジャンダーク領の街へ来てからマンツーマンで鍛えた。
頭は元から切れるので、勉学にも苦戦する事は無い。
後衛寄りの職に偏っているが、どこに出しても心配の無いステータスにはなっている。
ミラは相変わらず様々な職をマスターしていて、ソロという観点であれば兄妹で俺に続いた能力になっている。
前衛、後衛、索敵、何でも出来るミラは器用貧乏になる事は無く全ての面で一流だ。
ミシェルは俺の御付きのメイドだという事でオマケなようだが、美味しい料理が食べられるのなら問題は無い。
最低限の護衛が出来る力は与えているので、ある意味バトルメイドだ。
「いきなり呼ばれたと思ったら、また思い付きですか?」
イオは慣れたとばかりに呆れている。
「テイムしたら私にも触らせてね!」
ミラは一緒にノリノリになっている。
「身の回りについては任せて下さい」
ミシェルは25歳になっていたが、大人の魅力を纏うようになった。
実は街にはミシェルのファンクラブが存在しているらしい。
「よし、じゃあ出発しよう!」
アイテムボックスに道具や食料を詰め込んでいるので、俺は直ぐに出発した。
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