第37話 クラウ、更に振り返る

 この世界の学校は14歳になる年~15歳の2年ほどで学ぶ簡易的な物だ。

 入る学生も貴族や大手の商会の子供、また類稀なる才能を持つ子供と限られており、勉強と顔合わせを半分ずつ担うような施設になっている。


 ここで上手く人脈を作れるかが今後の人生に関わるという事で、血眼になって相手を探している連中が大半なようだが、ライルはその点問題がなかったようだ。


 剣の腕はあの後も磨き続け国の最重要人物であるS級冒険者と遜色ない程成長していた。

 魔法も使えるようになっていたし、領地を引き継ぐ為政治を中心に知識も蓄えている。


 それに加え美男子な見た目だ。

 成長と共にどんどん体が大きくなったライルは、今では180センチ後半の体格になっている。


 数年で男爵から伯爵位に上がり、王家との関りも強い。

 更には技術経済が最も伸びているジャンダーク家の跡取り。


 敵対する者はくだらないプライドを持つ少数で留まり、寧ろ熱いアタックを躱す方が大変だっただろうなと俺は同情する。



 だがそんなライルにも婚約者が出来た。

 この国のハウアー侯爵家の次女であるクルシア令嬢である。

 歳は同じで最初はお互いに距離感を保ち接していたが、ライルの権力に媚びない姿にクルシアが惚れ猛アタック。

 根負けしたライルとの婚約を勝ち取った。


 ライルはどの立場の人間とも仲良くしていた。

 特に親友と呼べるジダンは平民でありながら剣聖の称号を持つ将来有望な人間であった。

 学校内での立場は皆平等とはいえそれでも貴族の一部が下らないプライドで見下している。


 そんな中ライルはいち早く才能溢れるジダンと共に剣の訓練を共にしていた。

 実戦経験豊富なライルの剣を吸収していったジダンは成長していき、ジダンはその恩をライルに感じていた。


 だがライル自身も本気で打ち合える相手が居なく、早く地元に帰りたいと嘆いていたのが覆る存在になっていたのだ。

 お互いの存在に感謝しつつ共に過ごすその姿に、一部の腐った人たちが歓喜していたのは余談だ。


 ジダンは更なる成長の為に冒険者として今後活動していくようだが、いずれ必ずライルの元に行くと約束してくれた。

 ライルはその心意気に感動し、盟友と呼ぶようになっていた。



 そんなライルが2年の学校生活を終え帰ってきていた。

 代わりにマックスが学校に行く年になったので領地に居ないのだが、興味が無ければ全く無関心になる性格だ。

 うまくやれるのか心配で仕方が無い。



「ここら辺も大分変ったね」

 ライルはジャンダーク領を視察しながら帰ってきたようで、感心したように呟く。

 今まで一番先を走っていた王都から帰宅したライルでさえ、この目新しさに目を輝かせた。



「これからはライル兄さんも力になってくれるし、更に発展していくよ」

 俺はまだ見ぬ未来を楽しみにそう返す。



「王都でもトイレの存在はとても喜ばれていたよ。開発が家だってわかった時の女子たちと来たら……」

 呆れたような表情でそう話すライル。

 前にも言ったようにこの世界のトイレは余りにも原始的だった。

 俺も久々に水洗トイレを使った時、魔石やスライムなどの素材を作り出してくれた神に感謝を捧げてしまったくらいだ。


 女子たちもその革新に感動したのだろう。

 そしてそれを今後主導するライルはそれは獰猛な肉食獣達に狙われたはずだ。



「僕はなんだかんだ躱して居たけど、マックスが心配だね」


「全く否定できない」

 2人で顔を見合わせて笑った。



「何面白そうな話をしてるのよ?」


「やあミラ、ただいま」


「お帰りライル兄様」

 そんな話をしているとミラがやってきた。

 本来家族で出迎えるのが普通だろうが我が領は著しい成長期だ。

 それを仕切る家族たちもまた大忙しで過ごして居る。


 ミラは12歳となったが良く成長した。

 姉であるが、それ以上に女性的な魅力が増してきたと思う。

 勿論実力面も妥協無く取り組み、剣でも魔法でも一級品なレベルで扱える。

 様々な事に興味を持つミラは俺の提案する様々な案に興味を持ち、最近では美容関係のリーダーをしていた。


 俺の記憶に残っていた化粧関係、美容関係の知識を粗方伝えると、それを実現しようと街の女性達とチームを組み躍起になって研究している。

 現状完成しているのは化粧水とシャンプー、リンス。

 たったこれだけと思われるかもしれないが、これが世界の女性達に衝撃を与えたのだ。


 女性達も日に日に衰える肌を気にして試行錯誤をしていたが、それでも気休め程度にしかならない物しか存在していなかった。

 このジャンダーク領を中心に薬草類が盛んに育成されるようになり、それを利用した化粧水を生み出したミラは女性から神様扱いされている。

 ポーションなどの材料となる薬草達から生み出されたこの化粧水は、文字通り肌を回復させる代物となっていた。


 前の世界でこの化粧水が生み出されていたら、様々な美容技術が太刀打ち出来なくなる程の人気を生み出しただろう。

 まさに異世界化粧水だ。


 シャンプーやリンスも同様に薬草成分が含まれ、更に様々な香り付けをされた事でいい香りを発する女性が増えた。

 綺麗な髪に肌、そして魅力的な香りに引き込まれる男性達は、以前より尻に敷かれている割合が増えている気がするのだが、本能に抗えないのは性だろう。


 そんな女性の救世主となっているミラだが、本人もその魅力を倍増させている。

 容姿端麗スタイル抜群、これで12歳なのだから成人した時には……勿論姉に対して女性的な関心を持っているわけでは無いが、それを差し引いても魅力的だと思う。



「あ、クラウ! また薬草を融通して欲しいのだけど」


「好きに取っていっていいよ」


「ありがとうね! ライル兄様、夜ご飯の時にゆっくり話しましょ」

 そう言うと風のように薬草畑に走り去るミラ。



「相変わらず元気だね」

 そんな姿を見たライルは微笑ましく眺めていた。



 クラウが10歳になり、成長を続けているリシュテン王国。

 そんなクラウはまだまだ自重する事無く活躍を続ける。

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