第二章

第36話 クラウ10歳

「おはようございます」

 俺はいつも通りの朝を迎えている。

 忙しなく過ごした日々はとても充実し、いつの間にか10歳を迎えていた。

 俺が王都で神の使徒と呼ばれエリーゼと婚約者になったあの日から5年経っている。


 その間に世界は大きく動いていた。


 一番の変化は教会だ。

 今までプロメテウスの一柱を崇めていた聖都に本部がある創成教。

 それが俺とゼロの存在により勢力が分かれた。

 プロメテウスとゼロの二柱を信仰する真神教が新たに作られたのだ。


 この真神教、実は教皇はフランブルクである。

 あの一件以降一気に動き出し、リシュテン王国を中心に信心深い教徒が一気に集まった。


 創成教の権力者たちはその動きに反発するように非難をし俺までも対象に異教徒としたようだが、神託を聞いた人数の多さやスレイヴ王までも共に聞いていた為効果が薄かった。

 権力や利権に固執した人間以外は大きく真神教に流れている現状で、創成教の権力は昔に比べ大幅に削られていた。



 この流れにより大きく進展したのが食料事情と死亡率の低下だ。

 元々回復魔法を囲い込み信者や民から多額の寄付金を徴収していたのだが、真神教は気持ち程度しか貰わない。


 現実的に可能となった最大の理由が、俺が見つけた畑への成長促進効果だ。

 元々回復魔法に長けていた教会の多数が流れてきている真神教は、その担い手となり様々な領地に招かれている。

 その利益は国としても計り知れなく、教会の運営はうなぎ上りに黒字になっていた。


 その為回復魔法使い達の利益を損なわずに安い額で人々を癒す事が可能になった。

 好循環により多数の民からの支持を得た真神教は、現在世界の中心宗教となっている。


 ただ俺が神の使徒という肩書を外される事が無かった為、生誕の地ジャンダーク領が聖地と言われているのだけは何とかしたい。



 ここまでは世界事情の話だったが、勿論俺達家族も多くの変化があった。

 まずジャンダーク家は子爵から伯爵になり、テリーは貴族の中でもそれなりの力を持つようになっている。


 周辺の貴族には利益を分け与えている為、争いなどは今の所起きていない。

 辺境の地にあるジャンダーク領を中心に高度な成長を遂げ、王都に次ぐ都市群となり始めていた。



 生活環境の改善の為、俺は様々な記憶を頼りに魔道具を作り上げていった。

 特に女性達には水洗トイレが喜ばれた。

 それはそうだろう、俺がこの世界で記憶を取り戻した時一番衝撃を受けたのだから。


 糞尿を貯めて自ら捨てに行く、木のへらで後始末をする。

 慣れるまでどれだけ時間が掛かったか!


 優先する事が沢山あったので後回しになったのだが、水洗トイレに必要になる水の魔石を作る事、便座を作る事は簡単だった。

 問題は下水道。

 計画的に大掛かりな工事が必要かと思われたが、俺がダンジョンに潜った時に手に入れたテイムスキルが解決したのだ。


 この世界にもスライムが居て、そして雑食な為処理が可能。

 それをテイムし利用すれば勝手に増えていく上に、臭いすら残さず消し去ってくれる。

 今では生ごみなどの処理にも使われ、国一番の清潔さを自負している。

 疫病の類の対策にもなり、一石二鳥だった。



 その他にも高級品であった冷蔵庫、魔導コンロの普及も尽力した。

 今までは大掛かりな装置でしか存在しなかったのをコンパクトに、かつ僅かな魔石で利用できるようにした為そこまで豊かではない家庭でも手を出せるようになっていた。



 ポーションによる食材の鮮度向上も合わせて食事の質も大幅に上がっている。

 回復魔法による薬草育成は真神教という大きな味方が出来たため容易に広がる。

 それによりジャンダーク家だけの利権にはならなかったが、他にも沢山開発生産している為全く問題は無い。


 かつては栄養を取る事を目的とした食事は一新され、見た目の美しさや手軽さなど様多岐に渡るメニューが増えている。


 そしてその中心に居るのが我が家のマリアとミシェルだ。

 職業料理人がカンストし、宮廷料理人を凌ぐ腕前になった2人は俺のアドバイスもあり今まで存在していなかったメニューを生み出し続けている。

 余りにも評判になったため、マリアがオーナーの料理店【ジャンダーク】が作られた。


 勿論マリアやミシェルが料理人をしているわけでは無いが監修をし、俺の力で料理人の職業を得たコック達が働いてる。

 今では他国からの観光客も訪れる程の名店と呼ばれ、支店を出せとの要望が凄い。

 マリア達は事業として大きくするつもりが余りなくあくまで領民の要望で出した店である為、レシピを公開する事にした。

 それでもマヨネーズなどの調味料、一部の甘味を秘伝としてるため、店に訪れる人間は後を絶たないのだ。


 どうしても欲しいと頼み込んでくる商人や料理人達には出来あがった物を魔道具で持ち帰る事の出来る人にだけ販売している。

 それを研究している人もいるらしいが、まだまだ完成には程遠いらしい。





「やあクラウ、帰ったよ」


「ライル兄さん!」

 王都の学校を卒業し帰ってきたライルを迎えた俺は、満面の笑みで迎えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る