第33話 ゼロの言葉

「おお、どうやら姿がしっかりしたみたいだね!」

 あのうさん臭い話し方が治ったゼロは、しきりに自分の体を観察している。



「落ち着け! ってか何でそんな見た目に」


「これはボクの元の姿だね。力を失ってからだから、何千年ぶりかなー?」

 ルンルンと鼻歌を歌いながら自分の姿を堪能しているゼロ。



「それにしてもボクがこの姿に戻れるほど力を蓄えてるとは、やはりキミは興味深いねえ?」

 こっちをマジマジと観察しているゼロ。

 でもさっきまでのピエロ人形の姿じゃないんだ。



「ちょっと、あんま見んなよ……」


「あれ? 照れてるのかな?」

 ニッコニコのゼロは更に嬉しそうに笑いだす。



「てかこんな話してる場合じゃないだろ!」


「おっと、そうだったね」

 俺が話を切り替えると、素直に頷くゼロ。

 本当に忘れてたとか言わないよな。



「ボクの事を皆に話してくるよ」


「上手くいくのか?」

 既存の認識での神様をひっくり返されて、素直に信者たちが頷くものか?

 大して信心深くない俺でも前の世界で全く知らない神様が現れたら、受け入れるのには時間が掛かりそうだ。



「まあ一部は反抗するかもね。それでもキミとボクに味方してくれる人間はそれなりに居ると思うよー?」


「何を根拠に言ってるんだ?」


「ずっと観察してきたからね、これでも神だよ?」

 ムフフと笑うゼロ。



「神を信じ称えてくれていたかつての教会は、その力を自分達の為に使うようになってきたからね」


「俺も噂には聞いてるけど」


「それを良しとしない人たちも沢山いるって事だよ、勿論教会内にもね」

 ウインクしながらそういうゼロは「じゃあ戻ろうか」と一言声を掛けると、俺も意識が戻る感覚に襲われた。



「クラウ?」

 ふと気が付くと後ろからテリーが声を掛けてきたのがわかる。

 少しだけゆっくりしすぎただろうか、目を開けて振り向く。



「大丈夫です」

 俺は心配を掛けない様に笑顔で答える。

 すると今まで祈っていた神の像の辺りが光で包まれる。


 おお! という歓声が聞こえる中、その光は収まることなく漂う。



「……プロメテウス様ですか?」

 王がそう呼びかけると、光から声が聞こえる。



「いえ、私はこの世界の神【ゼロ】と申します」

 そう聞こえた瞬間歓喜と共に戸惑いの感情が場を支配する。



「貴方達が信仰する神【プロメテウス】は、私の友です。この世界を守るために手を貸して下さいました」


「プロメテウス様は、この世界の神では?」


「申し訳ありません。残念だと感じると思いますが、彼はこの地を守るためにやってきた別世界の神なのです」

 そういうと一層ざわめきが起こる。



「静かにしろ! 神の御前であるぞ」

 王は一喝し、場を収める。



「申し訳ありません、ゼロ様。とはいえ私も戸惑っております、詳しく教えて貰っても宜しいでしょうか」

 相手は自分より上である唯一の存在、王とはいえ言葉を選びながら話しているようだ。



「勿論です、私はその為に来たのですから」

 そういうと光は優しさを増し、皆の心を包むように光り続ける。

 そこからは俺に説明してくれたように過去の歴史を語る。


 前の世界でもかつては地上に影響を与えていたと伝わる神。

 俺達の生活の変化に伴い身近に感じなくなってきたのは、その力が減ったせいだったりもするのかな。


 実際目の前にすると、こんなにも有難い存在かと心が震える。

 さっきまで口悪く突っ込んでたのはご愛敬だ。

 これも恐らくゼロの力なのだろう。



「……では、現在お声を頂けているのは、このクラウのお陰だと」


「はい、彼を通じ私は力を取り戻しつつあります。姿までは見せられませんが、声を届ける事が出来るようになったのも全ては」

 俺が思考の海に漂っている間になんか凄い事になってきた。

 大事なことを端折ってないよね。


 あくまでもこの世界に降り立って、それが上手い事作用しているだけだよ。

 それがこのままだと神の使徒として崇められそうな勢いだ。



「私はあくまで人の生活に関与する事はありません。ですが、貴方達とは別の次元の世界から守る事は出来るでしょう。その為には彼がこのまま自由に暮らしていく事が最も大切になります」


「は! 全身全霊を持ってクラウの自由を守っていきます」

 王が家来のように言葉を承っている。



「貴方達が健やかに過ごすことが私と、この世界の成長に繋がります。これからもより良く生きていけるよう、祈ってますよ」

 そう言うとゼロであろう光は収まった。



 場に静寂が流れる。

 王も流石に疲れたであろう。

 そうみると一目で分かるほど興奮している様子が伝わる。



「神がお見えになられた! その場面に居られたこと、一生の誇りとなろう!」

 王がそう高らかに宣言すると、一同から大きな声が上がる。



「この先永遠に語り継がれるであろう今日を、給われた言葉、一言たりとも忘れるな!」

 はっ!と答える周囲。

 流石は神だな、国を動かすのも言葉一つだ。



「そして今日この時を持ち、クラウをこの国の最重要人物と定める! 今後どの人物も危害や干渉その他一切を禁ずる!」


「お待ちください!」

 流石に行き過ぎてる。

 これだと俺は自由が無くなるぞ。



「私はあくまで王の家来で御座います。神の言葉とはいえ、お受けできません」

 そういうと先程まで嫌味を吐いていた大臣もこちらを見る目を変えたようだ。

 王に助言をする。



「クラウ殿の言う事も一理あります。神は我々の生活も見守ってくださいます、その為にはこれからも益々王が皆の上に立ち率いてもらう事が最善で御座います」


「しかしクラウは神の使徒だぞ? わしと同格以上であろう」

 やっぱりそういう認識になってるのね。



「なのでこの国として最大限の権利を与えるのでは無く、国が後ろ盾になればいいのではないでしょうか?」


「ふむ……」


「彼にはこのまま私たちの元男爵家として活動してもらう、その代わり今回の件を持って彼らに危害を加える事は我々の敵になるという事を示すのです。そうすればますます王家に忠誠が集まるはずで御座います」


「それでは私が神を利用する事になるではないか!」

 これは俺からもう一言必要そうだ。

 進言している大臣もこれ以上の言葉に詰まっているようだ。



「恐れながら王様。私にとっての一番は領民の幸せ、引いては我が家族の幸せで御座います。その為に王が更に力を振るってくれるのであれば、私もゼロ様も希望通りの世界になると思われます」

 俺がそういうと王は少し考え込み、覚悟したように言葉を返す。



「相分かった! ではジャンダーク男爵家の陞爵、並びに我が娘エリーゼをクラウの婚約者とする!」

 王が宣言すると周りはより一層大きな歓声が上がった。



「ちょっと待ってよ!」

 俺の声はかき消されていた。

 何故か王族の姫が婚約者になったのだった。

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