第32話 神との会話

「やあ、約束通り来てくれたネ」

 いつもの白いだけの空間に佇む人影が、こちらに声を掛ける。



「とりあえず言われたとおりに来たけど、本当に大丈夫なのか?」

 先程までの会話で不安を覚えている俺は、素直に神に質問をする。



「何とかなるネ、安心してヨ」

 全く説明もされていない内容でこちらに答える神。

 今までで一番信頼出来ないぞ、大丈夫なのか。



「ふむ……キミの不安も分かるのネ、確かにボクは人に知られてる神とは別の存在ヨ」

 俺の心を読み取った神は、疑問に思っている部分について触れた。



「プロメテウスは厳密にはこの世界の神では無いのネ、ボクが協力して貰った神ヨ」


「やっぱり俺が聞いた事のある神様だったって事か?」


「なんで彼にだけ様付けなのネ」


「それは今は良いだろ」


「……そうだネ、彼はキミの居た世界を管理する神々の一柱ヨ。反抗的な部分も多かったけど、基本は人に対する想いが強くて、優しい神ヨ」

 そういうと目の前の神が話を続ける。



「ボクは前も言ったように世界には干渉出来ないのネ。そんな時にこの世界の事を聞きつけた彼がこの世界に干渉してくれたのネ」


「詳しくは知らないけど、そんな事が可能なのか?」

 それぞれの管理している世界とは別の場所に干渉出来るのだとしたら、それは神同士の戦争にまで発展しそうだ。

 そんな危険なルールがあるとは考えにくい。



「特例中の特例だったのヨ、ルールを破った神が居たのネ」


「別の神が居たのか?」


「いや、この世界はボクしか観測者は存在しないのヨ。ただ別の世界からルールを無視してやってきた厄災がいたのネ」

 そういうと神は深刻そうな声で話を続ける。



「アラブルガミと呼ばれているネ。キミの世界でも言い伝えが残っていると思うヨ」


「すまん、俺はそういう知識には疎くて」


「大丈夫よ、つまりそのアラブルガミを追いかけて来たのがプロメテウスだったって事ヨ」

 どうやら俺の世界は大分迷惑を掛けていたようだった。



「そんな禁忌を破ったアラブルガミは、理性も姿形も崩壊し、ただ邪悪な存在としてこの世界に降り立ったネ。そしてこの世界は一度壊れたのヨ」

 悲しそうな声で言葉を続ける神。



「直接干渉出来ないボクの代わりにプロメテウスにこの世界の力を全部渡して、それでようやくこの星から消滅させる事が出来たのネ。その時に力を使い果たしたボクの代わりにプロメテウスは改めて世界を作り直してくれたのヨ」


「それが未だにこの世界に伝わっていると?」


「そうネ、だから神への信仰はあれどボクは力を取り戻すことが出来ずにいるのヨ。今回やっと地上に言葉を授ける事が出来るのだって、キミを渡したボクの力を通した信仰の気持ちの強さがボクにやってきたからヨ」


「それなら歴史に残ってるプロメテウスへの信仰だって、お前の力になるんじゃないのか?」


「彼は神ネ。彼への信仰は彼へしか向かわない。その点キミは人ね。人々はどこかで思っているんじゃないかな、神が与えてくれたと。だからその気持ち、信仰はまだ見ぬボクに伝わっているんだヨ」

 そういう神は自慢げに話し終える。



「まあなんだ、俺はその説明で全て納得出来た訳じゃないんだけどな。でも俺はあくまで世界のルールは知れても、神々のルールまでは知らない。俺の常識に当てはめてああだこうだ考えても、仕方ないのだけは分かったよ」


「割り切りの良さは好きヨ。今回はせっかくボクも言葉を伝える事が出来るのネ。この事をしっかりと伝えようと思うのヨ」


「それで人は信じるかな? 今までこうだと思ってた常識は、どんな存在に言われても直ぐに変える事は難しいと思うぞ」

 特にそれが利権に関わっていたのなら、猶更だろう。



「それでも人々に、ボクの存在が伝わるのネ。少しでも変化が起これば、その波は止まらないヨ」


「それが争いを生むとしてもか?」

 俺が告げた言葉に神は考える事も無く続ける。



「それはキミが何とかしてくれると思うからネ」


「ネじゃねえよ! 使命なんか無いって言ってたじゃないか!」

 話が違う。

 そこまでの重たい話を俺に持ち掛けられた所で困る。



「大丈夫ヨ、キミはこのまま生きていれば良いのネ。キミの道の先には、きっと困難も待ち受けている、今だってそうネ。それでもキミが正しいと思う道を進むために歩みを止めていない。そしてそれがボクを含めた世界にどんな影響を与えるか、今後も楽しみネ」


「本当に自分勝手な奴だな」


「ボクは神だからネ」

 随分と自由な神なことだ。

 だがこの神もこの世界や人を含む生命の事を考えている。

 だから嫌いになれないんだろうな。

 俺は本当に損な性格だと思う。



「そういえば」


「ン?」


「名前、聞いてなかったな」

 俺は目の前の神の名を知らない。



「ボクに名前は無いヨ。この世界を観測する存在、ただそれだけ。でもどうせならキミにつけて貰おうかナ」

 少し嬉しそうな表情で言ってくる神。



「そんな大層な役目を簡単に与えていい物なのかね……」

 呆れてしまっている俺に催促するように、神は促す。



「じゃあ【ゼロ】だ。この世界はまだ赤子で、お前は存在するだけの神だ。この世界に1から知られていくのは今からだから……安直で悪いな」


「ううん、大丈夫なのネ……ボクはこれからゼロと名乗るよ」

 そういうと今までピエロの人形姿だったゼロが、更に光出す。

 その光が収まったと思うと、今まで見えていなかった姿が俺の目に映った。



「おい、お前……女だったのか」

 目の前には、絶世の美女が姿を現していた。

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