第31話 王都の大聖堂
王を待たせる訳にはいかない。
俺達は予定の時間より早く教会へ出向き、王の到着を待つことにした。
向こうには先に向かっている事を伝えているので、入れ違いになる事はないだろう。
「ようこそおいで下さいました」
恰幅の良い男性が俺達を出迎えていた。
今日の事は伝わっているのだろう、恐らく上の立場の人が出迎えていた。
「テリー・ジャンダークです。こちらは息子のクラウです」
「今日はよろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。私は枢機卿のフランブルクでございます」
枢機卿とは相当上の役職じゃなかったか?
聖都ダングルという教会総本山がある国に教皇が居る様だが、昨日の今日では来ることは出来ない。
この国では一番の人物が対応してくれる程、教会としても大きな出来事なのだろう。
神の存在が明確になるかもしれないのだ。
自分たちの存在意義を示す物となる。
「本日は何とめでたき日か。我々教徒にとって、歴史に残る日になるでしょう」
フランブルクは祈りを捧げ始める。
だが目の前にいるのは俺だ、神じゃない。
どうしていいものか分からず、困惑するだけだった。
「これは失礼しました。私も舞い上がってしまっているようでお出迎えも満足に出来なく。時間になるまでこちらの礼拝堂でお待ちください」
「いえ、お気持ちは分かります。教会に来るのは初めてなので、見学させて頂いても宜しいですか?」
「どうぞどうぞ! この国一番の教会になりますので、ごゆっくりご覧ください」
フランブルクは想像より丁寧な対応をしてくる。
権力が大きい教会、というだけでイメージを勝手に決めつけていたが、それだけではないのかもしれない。
とはいえ安心するには早いのだが。
中に入ると煌びやかな空間が広がっていた。
綺麗な白壁で囲まれた空間に大きな窓が何個も付けられ、枠に使われている宝石が光を反射して幻想的な風景を映し出している。
一番奥には像があり、その周りには様々な花と装飾の施された壁画がある。
それにしてもあの像、随分威厳のありそうな男性の像なのだが、俺が知っている神は随分軽そうだったよな。
もしかして違う人物を崇めているとか?
だとしたら少し不味くないか?
「あそこに居られる像こそ、この世界の創造神であるプロメテウス様で御座います」
フランブルクは鼻息荒く説明してくれた。
あれ、プロメテウスって前の世界にもいなかったか?
ということは前の世界とこの世界は関係あるのか?
神話に特に造詣の無い俺は、名前だけを思い出し答えの出ない考えをしてしまう。
「この世界は初め、何もない空間のみが広がる所に神が地を生み出し、空を生み出し、水を生み出したのです。そこに生命が生まれ、我々人もその時に誕生したのです。それからも我々を見守ってくれた神が今日この日に言葉を授けてくださるのです、ああなんて素晴らしい日なのか」
嬉々とした表情で語り続けるフランブルクは本当に嬉しそうなのが言葉の節々に漏れている。
根っからの信者なのであろう。
だが神は最近信仰の力が大きくなり始めて出来る事が増えたはずだ。
この世界でそれなりの権力を持つ協会が存在するのなら、俺の力など微々たる物になるはずだ。
やはり俺の知っている神は目の前の像の神とは違う可能性が高い。
「……そうなんですね。ちなみに他に神様は居られるのですか?」
「この世界に存在するのはプロメテウス様のみで御座います。……しかしここだけの話なのですが」
そういうフランブルクは耳打ちしてくる。
「プロメテウス様とは別にもう一柱の神が存在していると言われています。ですがその神の話はどの聖書にも記載がなく、ただ言伝に教会の一部に伝わる物でして。崇めるにも対象がわからなく、現在もプロメテウス様一柱のみの信仰が続いております」
「その様な事を話しても良かったのですか?」
「我々としても初めてお目に掛かるのです、低い可能性だといえ知らぬでは通じないと思いまして」
フランブルクは少し弱弱しい笑顔で答える。
この人はイメージにある教会の人物とは違う様だ。
教会全体はともあれ、この人は信用していいだろう。
俺はこの会話でそう確信した。
そうこうしている内に約束の時間が来たようだ。
教会のシスターがフランブルクを呼びに来ると、「王様がご到着しました」と一言告げてくる。
俺とテリーは共に出迎えに向かう事にした。
「待たせたな、気を使わせたようだ」
先に到着し待っていた俺達に向かい言葉を掛ける。
「その様なことはございません、当然の事をした迄であります」
テリーがそういうと、一緒に訪れていた大臣らしき人物が不満そうにしている。
そりゃ王が目下の者に掛ける言葉ではないからな。
「どうぞお越しくださいました、こちらへどうぞ」
フランブルクは手慣れたように案内をする。
王と臣下の人間がそれについていき、我々もその後を追うように向かう。
「して、クラウよ。神託を下すと言っていたが、我々は祈るだけで良いのだろうか」
「私も話を聞いただけなので、方法までは……とりあえず祈ってみます」
「ここまで大事にしておいて嘘では済まされんぞ!」
俺の言葉を遮るように声を荒げる男が居る。
どうやら王の側近の一人なのだろう、大きな態度でこちらを睨みつける。
まあ言葉だけで信じられるものではないだろう。
俺も自分の能力を加味したとして王がここまで信じてくれることの方が驚きだ。
苦笑いを浮かべて会釈を返す。
「では失礼します」
俺は王にそう声を掛けて、像の前で祈りを捧げる。
吉と出るか凶と出るか。
そんな思いを浮かべつつ目を閉じる。
すると以前感じた夢の中に入るような感覚に襲われた。
目の前にはいつもの神が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます