第29話 スレイヴ・リシュタッド王
謁見を終えた俺達は、再び待合室で待機していた。
「思った以上の結果でしたね」
俺は素直に結果を喜び、テリーに話す。
「うむ、上々だとは思う。だが……」
テリーも結果自体には満足しているようだ。
しかし何か気になる様子だった。
「王は露骨に喜びを見せる人ではないのだ、それを見た貴族の面々はどう思うだろうか。敵を作る覚悟はしていたが、より一層注意せねばならないと思ってな」
新興の男爵家が大きな功績を上げて、喜ぶ者など居ないのだ。
結果だけを見れば成功なのだが、俺自身貴族社会を舐めていた部分があるかもしれない。
この世界は元の世界とは違う、それを改めて自分に言い聞かせなければいけない。
前の世界で見ていた物語とは違う、上手くいく保障などない。
上手く立ち回る事が出来なければ、そんな物語とは違う悲劇で終わるかもしれないのだ。
「そうですね、俺もあの席で初めて様々な貴族を見ました。考えを少し改めます」
俺は素直に謝罪をする。
嫉妬、憤怒、様々な感情や目線を感じた。
これまでも見えない所でテリーの頑張りがあったのかもしれない。
守っている、幸せにしているつもりでも、俺は逆に危険を招いていただけかもしれないのだ。
「わかってくれたなら今回の最大の収穫かも知れないな、お前は常識を知らないから」
朝の告白を経たからか、テリーは辛口になっていた。
俺に対する気持ちも定まったのであろう、今後はきちんと諫めてくれる事になる。
甘えず俺自身考える事も忘れない様にしないとな。
そんな時ガチャっと音を立て、待合室の扉が開いた。
準備が出来たのであろう、俺達はそちらに目を向ける。
だがその瞬間、驚きのあまり一瞬思考が停止してしまったのだ。
「スレイヴ・リシュタッド王が到着致しました」
部屋の外で守ってくれていた兵も突然の訪問に驚いたのだろう。
順序が逆になっているのだが、それでも職務として報告をしていた。
「これは失礼しました!」
テリーはすぐさま傾げづき、俺もそれに続く。
「面を上げてくれ、そんなに硬くなるな」
俺達を立ち上がらせるよう促すと、目の前の席に座っていた。
少し楽しそうな態度が伺える。
「失礼します」
テリーは指示に従い、王が座ったのを確認してから席に着く。
「この度はこのような時間を割いていただき誠にありがとうございます」
「良い、儂も仕事ばかりでは肩が凝るのでな」
そういうと嬉しそうな顔でこちらを見ている。
本当に仕事が嫌なのかもしれない、元々武を重んじる人物だ。
頭より体を動かすのが好きなのかもしれないな。
「それで、どんな話を聞かせてくれるのだ?」
「は! まずはポーションの安定生産の件についてお話します。この度我が領で材料となる薬草の栽培方法が確立されました」
「なんと! それは誠か?」
王も知識はあるようで、ポーション作りの最大の難関であった材料の確保について知っていたようだ。
冒険者ギルド経由で納められた薬草で作るのが今までの主流だったため、どうしても数が足りなかった。
国として生育に取り組むこともあったが、それも上手く行かずに放置されていた。
その為低級ポーションをドロップするダンジョンは国として管理され、各領土の貴族に一任されているのだ。
「回復魔法を利用する事で、最後まで枯れることなく成長します。更に通常の作物にも同様の成長促進を確認出来ました」
テリーがそういうと王は難しい顔になった。
回復魔法は教会がほぼ独占状態なのだ。
これを公にすると力を持たせすぎる事になる。
「なるほど、それはあの場では話せんな。して、その回復魔法の使い手は領にいるのか?」
一定以上の力を持つ人間はもれなく教会に保護という名で囲われてしまうので、在野のまま存在する人物はごくごく僅かな力しか持たない者しか残らない。
「その人物の事を話す前に、王にお願いが御座います」
「儂と取引をしようというのか?」
少し険悪の雰囲気が流れる。
「恐れながらそうで御座います。これから話す内容は概ねその人物が関わっております。どうか王の力で、立場を守って貰いたいのです」
テリーは臆せず言葉を続ける。
「確かにこのまま何もせずに情報が広まると、様々な勢力が一斉にそちらに目を向けるな」
今の話でまず間違いなく教会が敵対するだろう。
栽培方法を独占する為に様々な手段を使ってくることは容易に想像出来る。
周辺貴族や大貴族も結託するやもしれない。
新興貴族のジャンダーク家はそれほど弱い立場にある。
「手段は考える、とにかく話を最後まで聞かなければ答えは出ぬ」
王は協力的な姿勢を出した。
それ以上にその人物へ興味を示した。
重要人物であるとしても王に対する物言いは不敬と取られても仕方ない。
それでも目の前のテリーが行ったことで、王の中で興味が湧いていた。
「回復魔法の使い手は、隣にいる息子クラウで御座います」
テリーがそういうと俺は王に一礼をする。
「同席させているのを見ると何となく予想はしていた。しかしこの様な子供が」
王は信じられないと言った様子で伺う。
「クラウは屋敷に薬草園を作り、現在多種多様な薬草栽培に成功しています。先程渡した上級ポーション然り、全てそこで作られております」
「なるほどな、その発想も息子が?」
「独自に動き、方法を確立させました」
「ふむ……」
王はしきりにこちらを見、考え込む。
「報告せねばならない事がまだありまして」
「まだ何かやらかしているのか?」
この件でも父であるテリーの悩みの種になっている事が察したのであろう。
そうでなければ今回のような貴族の敵を作るような機会を作る事など無い。
「クラウは様々な能力を持ち合わせております。その中でも特質すべき能力が3つございまして」
「3つもか!?」
王は元の威厳ある態度はどこへやら、素直に驚いてしまっている。
「回復魔法がその一つか?」
「いえ、それはこれからの能力に付随する物で御座います」
「そうであるか……」
テリーを見る王の目が優しくなっている。
ああ、これは憐みの目だ。
さぞ苦労したであろうというやつだ。
ごめんなさい。
「1つは転職官、というユニークスキルで御座います」
「ユニークスキルとは、前に報告のあった物であるか?」
「はい、それは2つ目の能力である完全鑑定というユニークスキルで発覚しました。完全鑑定はどのような人物でも全ての能力を把握でき、今まででは見る事の出来なかったユニークスキルという存在も、クラウにより発見されています」
「うむ……して、転職官とは?」
「これは人物の天性的な物であった、職業を自由に変更する事が出来るスキルで御座います」
「そのような……」
王が完全に引いてるぞ。
「それにより我が領の一部の人間は様々な職のスキルを手にしています、私もその一人です」
「ということは、先程の回復魔法も」
「この能力によるもので御座います」
少しの間沈黙が流れている。
王にとっても、このクラウという人物をどう扱っていいか分からない様だ。
それほど規格外、いや、今までの常識が全て変わる物だった。
「……あまり聞きたくないのだが、ここまで来たら仕方が無い。最後の能力とはなんだ」
「は! ……最後の能力はアイテムボックスで御座います」
「ん? アイテムボックスというのは、たまに持つ者が居るあの?」
「そうです、あのアイテムボックスなのですが、少し仕様が違いまして。クラウのアイテムボックスは時間が止まるのです、そして容量も底を知れません」
そういうと王は頭を抱えた。
それ程の能力、どんな分野でも活躍できるのだ。
商売などの日常生活だけではない、寧ろ真骨頂となるのは軍事面だろう。
これで他国に知られたときに狙われる事になるのは確定となったのだ。
「なるほどな……のう、クラウとやら。お主は何者なのだ」
王は初めて俺に声を掛けてきた。
ここまで話したのだ、俺も隠す必要はないだろう。
俺は素直に転生している事を打ち明ける事にした。
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