第27話 朝のひと時

 王城に向かう当日の朝、俺は早く目を覚まし庭で体を伸ばしていた。

 神から力を得て、それなりの功績を上げていても俺は子供で元々一般人だ。

 王などと直接会うのに緊張しない訳が無かった。



「随分お早いお目覚めですな、あまり寝れませんでしたか?」

 ジュドーは当然のように俺を見つけ声を掛けて来る。

 既に身支度は終え業務モードに入っているが、まだ早朝だ。

 きちんと寝ているのか?



「流石に緊張しちゃって、恥ずかしながら起きちゃいました」

 えへへと笑いながらジュドーに返事をすると、ジュドーは部屋に案内してくれた。





 部屋で待っているとジュドーはお茶を持って戻ってきた。



「気持ちが落ち着くハーブティーです。お口に合わないかもしれませんがお飲みください」

 そういうと俺の目の前にカップを置き暖かなお茶を注いでくれる。



「良い香りですね……うん、美味しい」

 少し鼓動が落ち着いた。

 鼻から抜ける香りを楽しみながら、ゆっくりと息を吸う。



「クラウ様はまだ幼いながら様々な事を成す力を持っているようで、話しているとまだ子供だという事を忘れてしまいそうになります。ですがこういう姿を見ると、少し安心しますね」

 柔らかな笑顔で俺に語り掛けるジュドーは、そのまま俺が落ち着くまで横に居て話に付き合ってくれた。



「おはようクラウ、早かったな」

 少し遅れてテリーもやってきた。

 俺が早く起きすぎているだけで寝坊な訳では無い。



「おはようございます、少し緊張してしまって」


「まあ無理もない、父さんも少し心臓がドキドキしているよ」

 お互い見えない重圧が掛かっていたようで、笑いあった。



「献上品は屋敷で出してくれ、目の前で出すには人目が多いだろうしな」

 テリーはジュドーの居る前でアイテムボックスの存在を話始めた。

 すなわち信頼出来る人間だということだろう。


 そもそも屋敷に持ち込んだ覚えのない献上品が目の前に現れても驚くだけだし、先に言っとくのは礼儀みたいなものだ。



「ポーション類と幸運のブローチですね。本当にこれだけで良かったのでしょうか?」

 俺は上級生産職に就き良い物を生み出すつもりで居たのだが、結局テリーはそれをしなくても良いと言って来た。



「献上品はどうしても人目に付くからな、今渡す予定の品も十分すぎる程だ。これ以上上乗せするよりクラウの成長を優先した方がいいと思う」

 テリーの言葉だ。


 そうすることで俺は一層力を付け、ポーション類の増産に力を入れられたのだから正解だったのだろう。

 やれる事が多いと際限無くやろうとしてしまうが、しっかりとした大人が居ると心強いな。



「幸運のブローチはアイテムボックスに閉まっておいてくれ」


「わかりました、結局目玉はこれになるのですね」


「前にも言ったがお前の存在を王に周知してもらうのが一番の目的だ、ブローチはオマケだよオマケ」

 そういうと悪ガキのような笑顔を浮かべるテリー。


 最初はすぐ戸惑い慌てがちな父だと思っていたが、ここしばらくの常識を壊す出来事の数々で成長していたのかもしれない。

 この状況でさえ楽しんでいる様子だった。



「ではジュドーは馬車と荷車の手配を頼む、時間に合わせ出発するぞ」


「畏まりました」


「よし、少し時間もあるしクラウ、少し訓練をしようか!」

 最近忙しくて出来ていなかった父との久々の訓練が、謁見の前に行われる事となった。





 まだ日が昇り始めて数刻しか経っていないので、外は涼しい風が吹いている。

 久々に木剣を握る俺は、テリーと共に素振りを始めた。



 ブンッ、ブンッ

 お互い無言のまま剣を振り続ける。



 ブンッ、ブンッ……

 およそ100回程素振りをした頃だろうか、テリーが静かに声を掛けてきた。



「クラウ、お前はこの数年で大きく成長したな。剣の腕も相当な物になっている」


「まだまだ父さんには及びませんよ」


「それは経験の差だ。恐らく成人を迎える頃には父さんはお前には勝てなくなるだろうな」


 少し気まずい空気が流れているが、お互い剣は止めない。



「父さんは未熟だ。王都に来て謁見するのも、領内が活発になり、近隣のイシェ村を救えたのも、クラウの力が大きい」


「そんなことは」


「事実だ、だが父さんはこれからもお前を頼る。俺のくだらないプライドなど領民や家族の幸せには変えられん。それでもだ」


 そう言うと剣を振るのをやめたテリーがこちらを向く。



「俺はお前の父親だ。どんだけ凄い力を得ようが、これからどんどん成長しようが、お前は俺の子供だ。だからいつでも頼れる父親で居る事だけは譲らないぞ」

 そういうと満面の笑みで俺に微笑みかけるテリー。


 テリーにも葛藤があったのだろう。

 流れるままに流され、どんどん変化する状況に食らいつき、ついに目的である王都まで来た。

 それでも父としてのプライドが、それを良しと出来なかった。


 結論に至るまで平気な振りをして考え続けていたのだろうな。

 少し成長したなんて烏滸がましい事を考えていた。

 俺にはまだ無い決意がひしひしと伝わってくる。



「いつまで経っても、父さんは俺の自慢ですから」

 改めて幸せな環境にいる事を噛み締めた俺は、剣を振るうのを辞めテリーに飛びついていた。

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