第25話 また現れた
イシェ村の事をイオに任せる事にして、王都の帰りに迎えに来ることを約束した。
畑に撒くポーション、経過観察ともし再発した時用に予備のポーションを置いていく。
薬草を育てる畑を耕してもらい、ポーションで使える育ちが良い物を選んでおく。
回復魔法無しでもそれなりのポーションの材料が作れるのだ。
それでも今は出来るだけ情報が漏れないように村の人にお願いする。
俺に恩を感じてくれている村人は約束を守るだろうが、情報が漏れるまでには確固たる関係を王都と結べればいいのだが。
俺としてもこの情報を世界に広げるのは本来賛成なのだ、独占や権力が極力絡まない形にしたいだけで。
そうすれば食生活も向上するし、あの神だって喜ぶだろう。
「じゃあイオ、この村の事は任せた」
「クラウ様の名に恥じぬよう頑張ります」
「そんな力入れるなって、イオなら大丈夫だから」
希望を抱いた人間は強い。
力強さを見せるイオに、人の逞しさを感じる。
村長に話したらとても喜んでくれた。
元々この村は終わりを待つだけだった現状が、数日でめでたい報告まで聞けたのだ。
村長は今まで以上に精を出すと若い物に任せていた畑仕事を自らも行うと息巻いていた。
腰は大切にしてね、後でイオに追加でポーションを預けておこう。
「クラウ、準備はいいか?」
「はい、思った以上に早く解決してよかったです」
「このまま何事も無く収穫を迎えて欲しいものだな」
昼を迎える前に出発をする事になったので入り口に集まると、テリーは見える場所にある畑を見ながら目を細めた。
何だかんだで民思いのテリーは良い領主をやってると思う。
力になれたなら嬉しいさ。
「お世話になりました」
「また帰り道に寄りますので、無理せず励んでくださいね」
村長と挨拶を交わすと村の人々が大きな声で見送りをしてくれた。
「こんな光景がどこでも見られるようになればいいな」
思わず口から零れた言葉は、俺の紛れもない本心から出るつぶやきだった。
「それにしても、神童ってやつですな」
護衛として隣を歩くボブはからかい気味に俺に話しかけてくる。
「たまたま俺の能力と問題が合致しただけだよ、何でも解決出来るわけじゃないさ」
まだまだ無力さがある、それに一人では出来ない事ばかりだ。
「私には難しい事はわかりませんがね、村人達のあの顔を見たらそう思うんですよ」
そういうとボブは業務に戻る。
そのまま残される俺は少し恥ずかしくなる。
「今日から数日は野宿になりますので、休める時に休んでくださいね」
御者のリックにそう言われたので少し眠ることにした。
「やあやあ」
「その声は神か」
気が付くと例の空間だ。
「キミはまたやってくれたネ」
「それは誉め言葉として受け止めていいのか?」
「勿論だとも、ボクの力を世界の為に使ってくれて嬉しいヨ」
「ただの自己満足さ。イオを仲間にしたのも俺の為だし」
「今まで何回かこの世界に来た人間はもっと自身の為に力を振るってたヨ」
「人間なんて力に溺れるものさ」
「だとしたらキミはボクの最も望んだ転生者ネ」
「俺だって欲まみれさ」
「キミの欲は人を幸せにする欲ネ、これからも頑張って欲しいヨ」
「今まで通り俺の生きたいようにするけど……神がこんな頻繁に話しかけていいものなのか?」
「キミのお陰ね。キミに対する人々の気持ちがボクの力にもなるね。本来は望んでも期待はしていなかったがネ」
そんな神は昔を思い出すように苦い顔をする。
「今までの転生者は人々を犠牲にし過ぎたネ。こちらの都合でもあるし見逃したけど、恨まれていた人が多かったヨ」
「それはお前の見る目が無いんじゃないのか」
「そんな事言わないでヨ。あの頃の地球の人は、発展こそしてたけど人の事を思う余裕はなかったネ。生きるのに必死だった分自分の事で精いっぱいだったのが、この世界に来てタガが外れるのはしょうがないのヨ」
「そういえば前の世界は同調や理解を大切にしているかもな、その分外れる物には苛烈になりがちだけど」
「キミの生きた日本のあの時代は、最も人に対するリソースを割ける時代だったネ。その分自分を疎かにする人も多かったけどネ」
そう言われて改めて前世を思い返す。
俺にとっては生きにくい世界でも、この世界の人間にとっては天国のような世界かもな。
この世界に来て当たり前だと思う人を思う気持ちに過剰に反応されるのも、根本的に考え方の違いがあるのかもしれない。
「これからも好きに生きてネ、キミの生き方を強制はしないヨ。でもキミのお陰でボクも久々に力が溢れて来るね。もう少ししたらまたプレゼントも上げられるヨ」
「精々失望されないように頑張るよ」
「じゃあまたネ」
そういうと俺は意識を失う。
「もう夕暮れか」
「大分寝ていたようだな」
向かい側に乗っているテリーは俺に気づき声を掛ける。
「クラウ、お前は確かに頭もよく力のある人間だ。だがまだ子供なんだ、疲れていたのだろう。イシェ村の件、任せきりですまなかった」
申し訳なさそうに謝るテリーだが、それは違うんだ。
神に拉致されただけなんだ、とは言えない。
「ありがとう、もう少し頼るよ」
「そうしてくれ」
少し甘えると受け入れてくれるテリーは自慢の父親だ。
心が温まる俺は、伸びをした。
それから順調に道を進み、俺達は王都に着いた。
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