第24話 最初の一人

「おはようございます」

 朝早く村長の家に向かうと村長の隣にライルと同い年位の男の子がいた。



「君は?」


「イオです。村長に呼ばれて待たせて貰いました」

 この辺りの村の子供にしては言葉が綺麗だ。

 どういう事だろうと考えていると村長が口を開く。



「イオはこの村の子供なのですが、大人にも負けないほど賢い子供なのです。行商人に自分の寄子にと誘われたのですが断ってしまい勿体ないと思っておりました。疫病の件私よりもイオに担当してもらった方が今後も良いと思いまして、私の代わりに連れて行って貰えないでしょうか」

 今日は畑の様子を見た上で今後の働きを決めるだけだ。

 村で優秀な人材が居れば見つけておきたかったし、そちらの件は解決かな。



「イオは勉強などしているのかい?」


「いえ、本や教育のような物は受けていません。ですが商人がやってきた際に少し算術を教えて貰ったので簡単な物は出来ます」

 商人としても子供の相手をしただけで簡単に教えたはずだ。

 それでも仕組みを理解する能力をこのイオは持っているという証明になる。

 予定以上の人物かもしれないな。



「とりあえず畑に向かいながら話そうか」


「わかりました」

 俺達は昨日ポーションを撒いた畑に向かう事にした。





「イオはその言葉使いをどこで覚えたんだい?」


「そんなにおかしかったですか?」

 質問に質問で返すな。



「いやいや、イオの話し方は商人や貴族相手でも最低限の礼儀は守れてると思うよ。それを村に居ながらどうやって覚えたのかなと思って」


「この村に来る前に王都にいたのです」

 そういうとイオは過去の話をしてくれた。

 王都に住んでいたイオは商人である父と母の元で生活していた。

 だが商売敵に父が暗殺され、母とイオは残されてしまった。


 そんな母にこの村の青年であった今の父が惚れ、一緒に連れて来たそうだ。

 父親が死んでから残された財で生活していたものの、途方に暮れていた2人は悩んだ末に一緒になったが、生活が安定していたのも少しの間。

 今起こっている疫病に巻き込まれてしまっていた。



「商人に誘われたって聞いたけど、なんでついていかなかったんだい?」

 教育などを受けていなかった、算術は来ていた商人から学んだと言っていた。

 父親からの本格的な指導を受けていないと考えれば、言葉使いは父親を見て覚えたのだろう。


 俺でさえ、才能があると今の話を聞いて思った。

 商人になればお金を稼ぎ生活に余裕を持つことも出来ただろう。



「……商人は嫌なんです」

 そういうとポツポツと気持ちを話してくれる。


「父は立派な商人でした。客を思いやり好かれていたと思います。でも俺や母さんを置いて亡くなった、どんなに真っ当に生きてもこの世界では力を持つ者には逆らえない。商人になって今度は俺が狙われてしまえば、母を残して逝ってしまいます。もうあんな思いはさせたくない」

 イオは世の中に絶望していた。

 確かに悪と呼ばれる人間は一定数居るだろう。

 俺だってその為の準備をすることばかりで今は時間が過ぎている。


 でもまだ子供のイオが、才を持て余すのは勿体ないとも思う。

 少し手助けを出来ないかなと思ってしまった。



「そうだね、力が無いと力には勝てない。それは俺もそうだと思う。でもイオからは才能という力を感じるよ。その力を貸してくれないか? 俺を信じるのは見てから判断してもいい。この村の為にも、俺の為にも、そしてイオ自身の為にも、俺と一緒に力を伸ばしていかないか?」

 最初はこの村の薬師として育てていこうかと思ったが、話を聞いている内にそれすら勿体ないと思ってしまっている自分が居る。


 聞いただけで身についている話し方、からかい交じりの商人からも学べる頭脳。

 イオが育てば絶対俺の力になってくれると確信出来るし、何よりこの歳で絶望を感じたまま知らんぷりする事が出来なくなっていた。



「僕は……母を置いていけません」


「なら家族と領に来ればいい。そしてそこで勉強して家族や村に利益を還せばいい。それが出来た時、君の心も変わっていると思うよ」


「心ですか……一つ聞いてもいいですか?」


「うん?」


「俺にそこまでする理由は?」


「簡単なことだよ。イオが育てば、人が幸せになるからだ。俺も家族も村の人も、それ以外の人だって。イオのお父さんは間違っていない。悪が手を出せない位に、俺やイオが強くなればいいんだ」


「強く……なれるのでしょうか」


「俺を信じてくれ」

 確証となる何かを見せる事は出来ない。

 でも俺はイオが強くなる手助けが出来る。

 ならそれを不安がることなく言葉に表すことでしか、イオに示す事は出来ない。


 そんな話を続けていると、畑に着いた。



「わあ……!」

 イオが目にしたのは、疫病に掛かる前よりも元気に育っている野菜たちだった。

 朝日が照らす畑は、生命力の強さを感じさせてくれる。



「僕も負けてられないな……」

 困難を乗り越えて強く生きる野菜に、自分を重ね合わせたのかとてもいい顔になっているイオだった。



「クラウ様、お願いします。僕を連れて行ってください」


「喜んで。これからよろしくな、イオ」

 思わぬ収穫となったが、俺の直臣になるイオが仲間になった。

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