第23話 王都への道中・イシェ村
「テリー様、村が見えてきました。今日はあの村にお世話になりましょう」
御者のリックが馬車の中に居るテリーに提案している。
「あそこはイシェ村か。以前訪れた時は貧しいながら元気な子供の多い良い所だったな」
以前テリーは訪れた事があるようだった。
「父さん、イシェ村はどんな所なの?」
「良くある小規模の集落だな。農業を中心に生計を立て、狩りなども行う様だ。村規模だとどうしても質素な生活になりがちだが、素直な子供達が良く笑っている良い村だったぞ。」
イシェ村はジャンダーク領の一部で、定期的に使者を送っている。
他の領に比べ無理な徴税を行わないジャンダーク家は好評なようで、好意的に迎えてくれると自慢げに話す。
「門番と話をします、少しお待ちください」
リックが馬車を止め、門番に入村手続きを行いにいった。
ジャンダーク家と分かり柔らかな対応をしてくれているようだが、少し申し訳なさそうな表情をしている。
「何かあったのか?」
テリーは馬車から降り直接話を聞きに行った。
「これはテリー様、いらっしゃいませ!」
「無理に堅苦しい話し方をしなくていいぞ。それで、何か問題があったのか?」
「実は村の畑で病が流行りまして、今年の収穫は絶望的で……せっかく来ていただいたのに、まともな歓待が出来ないのです」
「ふむ、我が領にはまだ話が来ていないのだが」
「こんな所で立ち話をさせてしまっては村長に怒られます、詳しい話は中に入ってからお願いします……」
そういうと門番は村の中に誘導してくれた後、村長を呼びに行く。
「おお、これはテリー様。お久しぶりで御座います」
「村長、息災であったか」
「私は変わらず、ですが畑の方が」
「うむ、先程門番から少し話を聞いた。こちらへの報告はまだ来ていなかったと思うのだが」
「それが広まったのがここ1週間ほどでして。対策も立てる間もなく次々移ってしまう物ですから、後は枯れるまで待つしかない状況でございます……」
この世界でも疫病のような物があるのだろう。
2人の会話を聞いている俺はこの事態の深刻さを感じている。
この世界の税はその職業によって様々だが、農民なら作物が一般的だ。
そして税というのはもちろん民の義務として存在するが、それが払えない時の対処がこの世界では重い。
猶予など与えられず奴隷に落とされてしまうからだ。
そして今はその宣告を前に、少しでも被害を減らそうと食事を減らし救われる者を増やそうと忙しいのだろう。
特に老人は痩せているように見える。
まだ始まったばかりだろうから、これが時間に連れ老若男女問わず苦しい生活を強いられた挙句救われない物はそのまま……。
「父さん、少しだけ王都行きが遅れても構いませんか?」
「クラウ、構わないが……何か考えがあるのか?」
父さんも村に入る前には自慢げに語っていた村だ、救えるのなら救いたいと思うのだろう。
「確実とは言えませんが、やれる事はやってみたいのです」
「そうか。村長、少し滞在しても構わないか?」
「もちろんですとも! 歓迎も大して出来ない上に、お力になろうとしてくれるだけで、私たちは救われますじゃ……」
重責に潰されそうになっていた村長はその場で涙を零す。
上に立つ者は、下の人間に不安を必要以上に抱かせないよう強くある。
この村長は、立派な人だ。
「じゃあまずはご飯を食べないとですね! 料理を出来る方を呼んでください」
俺は少しでも明るい雰囲気を取り戻したくて、笑顔で村長に話す。
村長が呼んできたのは村の女性達だ。
子供が居る女性もいるのだろう、皆少し疲れた顔をしている。
「今日は軽く食べられるものを作りましょう、余り食べられていなかった人もいるでしょうし」
そういうと俺はアイテムボックスから野菜を取り出していく。
スープには栄養と旨味が出るように肉も加える予定だ。
勿論食べられる人の為にパンも出す。
「これはどこから!?」
「まあ!? このパン、焼きたてのようだけど……?」
皆驚いてくれているようで何よりだ。
「今大切なのは、お腹いっぱい食べられる事です! 皆さんはこの食材で村の皆に食事を作ってあげてくださいね?」
そういうとこの村に来てから始めてみる村人の笑顔を見られたので、それだけでも出した甲斐があるってものだ。
「では村長さん、まだ日も落ち切っていないので畑に連れて行って貰えますか?」
「まてクラウ。あのパンは……」
「父さんその話は後でします、今はやる事をやらせて下さい」
「……ではクラウ様、こちらです」
あの評判の良い領主テリーが子供に振り回されている様子を見て驚きながらも、先程の言葉を信じてもいいのではないかと村長は思った。
希望が心に灯ると、人は元気になるものだ。
先程よりも軽い足取りで案内をしてくれた。
「これは酷いですね……」
畑の作物には斑点があり、中には既に枯れてしまっている物もある。
「1週間前に降った雨のせいで他の畑にも移ってしまい、手の付けようがないのです」
「効くかはわかりませんが、この畑でいくらか試させてください」
「このまま放って置けば朽ちるのです、どうぞ心行く迄」
まずこの疫病、想像では菌の影響で発症するだろうと考える。
菌を殺す、そのイメージで畑の一角に回復魔法を唱える。
【アンチドート】
所謂解毒魔法だ。
作物にとっては毒になる疫病を掃うつもりで掛けると、作物の斑点は消えた。
「おお! 病が!」
「でもこれだけでは今治せるだけで、土に眠る疫病までは消せないんですよね」
作物を対象にすれば治るが、この地に存在する疫病に再び侵されるだろう。
根本的に解決しなければ対処療法でしかない。
そこで俺は手持ちのポーションを試すことにした。
下級ポーションで作物の元気を取り戻し、解毒ポーションで病を取り除く。
これで効果が出るのであれば、ポーションの材料になる薬草を育てる畑を作りそれをポーションにする薬剤師を育てることで、解決に一気に近づく。
材料や薬剤師の育成は少し時間を要するので今出来る訳では無いが、畑を作り薬草を育てる事と薬剤師になってもらう人物を見つけて、手持ちのポーションを多く置いていく事で時間稼ぎは十分出来るだろう。
そうすれば王都から帰ってきてからでも間に合うはずだ。
「今はポーションが上手く効いてくれる事を祈るだけですね」
直接ポーションの掛かった元気な作物を観ながら、村長と村に戻った。
その後テリーにはアイテムボックスの変化を質問され続けたが、事実神の力なのだから納得出来ようが出来まいが伝える。
そう何度も神の介入があるのかと困惑するテリーだが、そういうものだから諦めてくれ。
出した食材でお腹いっぱい膨れた村人達は、テリーが言っていた活気のある雰囲気に戻っていた。
この人たちを守る為なら、力を使っても後悔はないな。
そう思いながらその日は眠りについた。
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