第22話 出立

 王都に行くメンバーは俺、テリーと護衛で兵士の中から選ばれたリック、ボブ、マークの3人だ。

 元々乗ってる人間の強さとジャンダーク領に残す家族の負担を極力減らしたいテリーの意向で少数での旅になる。



「じゃあマリア、いってくるよ」


「あなた、ご無事で……」

 熱く見つめ合ってる2人が満足するまで時間が掛かりそうなので、俺は他の面々と会話をする。



「ミシェル、頼んだよ」


「任せてくださいクラウ様、こちらの事は心配なさらずに」


「俺達が居なくなったらジャンが守りの要だ。何もないとは思うけど皆の事は任せた」


「任せてくだせえ、この数か月で国一の兵士団とも言える練度になりましたから!」

 テリーと俺が居ない間、防衛はジャン、内政はマリアとミシェル、当主代理はライルになる。

 ずっと見て来た俺からすれば、元々優秀なメンバーだ。

 大黒柱のテリーや俺の神の力が無くても現状の水準まで伸びた我が男爵家は安泰だろう。



「……本当についていったらダメなの?」

 俺の近くで俯き加減でつついてくるマックス。

 最近何となく俺に対する愛情が重くなってきた気がする。

 弟離れをしなければ今後困るため、ここは鬼になる。



「俺が居なければこの領で一番魔法を使えるのはマックス兄さんなんです。俺の大切な居場所をしっかりと守ってくださいね」


「クラウ……うん、わかった」

 マックスの好感度が1上がった!

 しかしこれ以上は上がらない!


 違う、なんかかっこいい事言ってしまった。

 まあ良いか、マックスもしっかりと留守を守ってくれそうだ。



「クラウは心配しなくていいからね、私もライル兄さんの手助けするし! でも他の女に好かれないか心配ね!」

 ミラは気持ちよく送ってくれるみたいだ。

 だがこの世界に来てから特別女性に言い寄られる事も無いし、まだ5歳だし?

 そんな心配は早すぎるんじゃないか姉よ。



「よし、ライル。父さんが居ない間はお前がこの地の主だ。代理とは言え、今後の勉強だと思ってしっかり頼むぞ」


「はい父さま。任されました」

 最近ますます大人らしくなったライルは、しっかりと役目と責任を引き渡される。



「では行ってくる!」


「いってきます!」

 テリーと俺は馬車に乗り、皆が見えなくなるまで手を振った。




 ジャンダーク家から王都までは6日程の道のりだ。

 道中には転々と村や町がある為、大変な旅にはならなさそうだ。

 そう思っていた朝の自分を恨みたい。



「……父さん。道が悪いのはこの辺りだけですか」


「何を言ってるんだ。ここだってしっかりと歩く道があるだけいいだろう。整った道、という意味なら王都周辺だけだな」


「お尻が痛いです」


「これから長距離の移動だって何回もするんだ、今のうちに慣れておけ」

 だって凄いんだ。

 座ってるだけなのに、俺は何度地面から離れた事か。

 ゴリゴリに体力を削ってくる馬車、モンスターより手ごわい。


 幸い体力自然回復が働いてるのか、今の所お尻に変化は無さそうだ。

 こんな所で役に立つとは。



「街から街への移動だからそんな事も言ってられるがな、これが少し道を外れるとけもの道のような場所を歩き、モンスターや盗賊を警戒しながら歩いていかなければいかない。そう思えばマシだと思わないか?」

 ここは一番人が通る場所なのだろう、遮蔽となる木々は遠く、いきなり奇襲されるような事は無さそうだ。


 盗賊もモンスターも発見するのが早ければ逃走成功率が上がるし、自然とそういう場所が道になっていくんだろうな。


 だがそれでもこの不快さは変わらない。

 早急に手だてを考えなければ。



「そういえば兵士の皆さんは若いのですね」

 俺は馬車から顔を出し護衛の兵士達に声を掛ける。



「俺はボブ、御者をやっているのはリックさんで、反対側に居るのがマークです」

 ボブと名乗る若い兵士は自己紹介してくれた。

 リックさんと呼んでるので、今回の護衛のリーダーだろう。


「ボブさんはおいくつなのですか?」


「クラウ様、敬語は不要です。俺とマークは16で、リックさんは21ですよ」

 確かに若いと思ったけど、未成年か。

 いや、この世界では15歳で成人なので大人ではあるのだけど。


 前の世界ではいやいや勉強をしていた年齢でも場所が変わればここまで逞しくなるのだな。



「ボブは何で兵士になったの?」

 これ以上丁寧に話しかけても逆に困るだろう。

 俺は砕けた口調で話しかける。



「俺は孤児で、冒険者にでもなろうと思っていたんです。一応子供の頃から剣を振って鍛えてはいたのですが、兵士長のジャンさんがそれを見てくれていて。「やる気があるならうちにこないか?」と誘ってくれたので入りました」


「孤児なんてのは世間体も悪く、まともな仕事に就ける方が珍しい。そんな俺達を拾ってくれたジャンさんとテリー様にはいくら感謝してもしきれませんよ」

 マークも会話に参加してきたが、恐らく2人とも同じ境遇なのだろう。


 テリーもジャンも色眼鏡で観ずに人を評価出来る人間だと知れて少し嬉しい。

 そしてその境遇でも腐らず訓練をしていたボブとマークが眩しく見える。


 今の俺は力を得てようやく人の為に生きようとしているが、前は……

 ただ腐って部屋に籠っていた俺の心は少し痛い。



「クラウ様、この2人はまだまだ若いですが人一倍努力家でしてね。腕だけなら兵士団でも上位に入るのですよ。だから安心してくださいね」

 リックは自分の後輩を誇らしげに紹介してくる。

 いいな、なんかこういうの。



「信頼してるよ皆」

 俺はそう声を掛けると馬車の中に戻る。

 ああ、お尻が痛い。

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