第21話 食の力
「今回王都には私とクラウで向かう」
「ライル兄さんは置いていくのですか?」
「もしもの為だな」
テリーは王都での報告の内容、俺の存在を考え長男であるライルを置いていく事とした。
食に対する技術の進展は確実、更にそれを実現できる俺という存在を王に知ってもらう。
今後更に自由に活動する為に王族との伝手は必ず必要になる。
だが万が一それを王が無理やり利用しようと考えれば、テリーも俺も身が危うくなる可能性もある。
その時家族を守るのは後継ぎになるライルだ。
その為に今は連れて行くべきではないとテリーは言う。
俺も単独の戦闘力では王都の兵士にも負けるつもりは無いが、数で挑まれては危ういだろう。
テリーから聞いた印象だと王には悪い印象は抱かなかった。
それでも1%でも可能性があるのならという事だ。
「わかりました、家は必ず守ります」
「頼むぞライル」
二人は熱い握手を交わしている。
そんな大事にはならないと思うんだけどな。
「出発は明日だ、必要な物はクラウのアイテムボックスに入れて貰えるか?」
「大丈夫ですよ。ただあまり日持ちのしない物は途中で仕入れるなりして下さいね」
「今回は貴族として王都に向かうのだ、そうそう野宿などしないから安心してくれ」
そういうと俺はテリーに言われた物を仕舞いに家の蔵に向かう。
そこにあるのは最近俺の作った最上級ポーションや複数の状態異常を治せる高性能ポーションを始め実践で料理に使う下級ポーションや状態異常回復ポーションだ。
これだけでも2割は埋められるので、早いとこアイテムボックスの強化方法を探したい。
更にダンジョンに潜っている間に発見した幸運のブローチも含めた献上品だ。
これでもおまけで本題は俺の存在だというのだから、神の力とは偉大なのだ。
その日の夜はいつもより豪勢な食卓になった。
最近は質の向上した料理を食べていたが今目の前に並んでいる皿は以前の世界の外食レベルとも遜色ない素晴らしい物だった。
「この肉は……香草で香りを付けてるのか。ふむ、生の部分が多くてもポーションのお陰で食あたりの危険も無いと」
テリーはステーキを食べながら納得している。
実際に料理を作り続けてるのはマリアとミシェルなら、その結果を文字として見続けてるのはテリーだ。
百聞は一見に如かず、というのはこの事だろう。
自分の知識と照らし合わせて舌鼓を打っていた。
「私はこっちの魚が好きでね、クラウのお陰で油も簡単に手に入るし小麦を塗した焼き魚が好きなのよね!」
「マリア様、こちらのスープも魚の旨味が大変出ていて美味しいですよ」
マリアとミシェルは料理によりとてつもないスピードで仲良くなっていた。
今では主人とメイド、というよりは親友のような関係だ。
「はぐっはぐっ」
「ばくっばくっ」
「んー! このトマト甘くてやっぱり美味しいわ!」
兄妹達も大変喜んでくれているので宜しい。
前の世界の意識を得てから、この世界の生活に不安が募る一方だった。
まだまだ快適とは言えないが、少しずつ進んでる光景を目の前にして俺はとても暖かくなった。
部屋に戻り、灯りを消した俺は真っ暗な部屋で昔を思い出してた。
あの頃よりも、少しは変われたのかな。
誰かの役に立てているのかな。
少し感傷に浸っていると、眠気が襲って来た。
その感覚に身を預け、意識が沈む。
「ヤあ、クラウ。絶好調だネ」
なんだか懐かしい声が聞こえてくる。
この見覚えのある景色は。
「神様久しぶり。もう会えないかと思ってたよ」
「ボクも見送った後は観測者としているつもりだったネ」
「このタイミングで現れたのは何かあるのか?」
「邪険にしないでくれて嬉しいネ。キミの働きを観てたんだケド、思った以上に世界の為に動いてくれて神は嬉しいのネ。そんなキミにボクからのプレゼントをあげようと思ったのネ」
「俺は家族の為にしか動いてないんだけどな……」
思っても居ない評価で俺は少しくすぐったくなる。
「前に言ったでショ? この世界の人間はどうしても進歩に疎いのネ。キミの働きでこの世界の食が改善され、民の健康状態はうなぎ上り間違いなしネ。そうすればボクへの信仰も増えて、チカラが増す事間違いナシよ。だからそのお返しを先にさせてもらうネ」
そういうと俺の体が光り出した。
「……? なにかしたのか?」
「キミがこれから先更に活躍出来るように、アイテムボックスを神仕様にしたのネ!」
ドドン!
という文字が神の後ろに見えたのだが、地球の創作が好きなのだろうか。
「アイテムボックスの中はこの空間と同じになったのネ! 世界の理から外れた神の領域。質量無視、時間の流れも無い完璧な空間ヨ!」
「つまり時間も容量もなくなったと」
「そうヨ! これからキミはこの世界に影響を更に与えるはずネ。勿論キミの気持ち次第、強制じゃないヨ。でもキミを見てたらそうなると、神、確信してるネ」
顔も見えないのに何だか嬉しそうな神だ。
「それと王都に着いたらボクから神託を下すネ。だから王様達と教会に来るのヨ。キミの立場が守られるようにボクもしっかり手助けするネ!」
「それは嬉しいんだけど、いくら何でもそこまでしていいのか? 実際に俺がこの世界でどう生きるのかなんて俺次第だって今も言ってるのに」
「頑張ってるキミを応援したいのよ! ンー、なんだかキミはボクの子みたいなモノじゃないカ。親からのプレゼントだと思ってヨ!」
そういう神からは悪意を感じないのだから、疑っているこちらが申し訳なくなる。
「ア、そうそう。美味しい料理が出来たらお供えするようにクラウから王に言って欲しいのネ! 質素な食事はもう嫌なのネ!」
それが本音じゃないのか神よ……。
「じゃあこれからも見守ってるネ。これからも良い人生をヨー」
俺は再び意識を無くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます