第20話 ジャンダーク領隆盛の一歩
ダンジョン強化合宿は大成功だった。
レベルも増え戦闘経験も積めた面々は逞しく見える。
ミシェルが魔法を覚えた反動で火魔法を連発してるのは狂気じみていたが。
ジャンには今後の事を考え【共有】スキルを獲得してもらった。
お陰で職業【騎士】はあまり育たなかったが喜んで受け入れてくれていた。
今後は定期的に訓練の中にダンジョン攻略を入れる様だ。
ポーションはお陰様で沢山手に入ったのだが、あまり無茶はしない様に釘を刺す。
兵士の皆、ごめんよ。
俺達は家に着き、真っすぐ執務室に向かう。
ミシェルはすぐにメイドの仕事に復帰するようで、急いで部屋に戻っていた。
「ただいま戻りました」
ライルが代表してテリーに挨拶する。
「怪我はしてないようだな……」
俺達は数日間の遠征で少し汚れてしまっているが、無事な姿を見てほっとしているようだ。
ライルが3日間の内容を報告し、テリーが真面目に聞いている。
スキル【共有】の有用性、回復魔法や属性魔法の生活への応用、食材に対するポーションの効果。
細かい事を省けばこの3点だ。
テリーは真剣に悩み、俺達に忠告をした。
「【共有】については限られた者以外には知られない様に気を付けてくれ、魔法の応用も同様だ。ポーションの件は王都に報告しても良さそうだ」
共有、魔法については軍事面で重宝する為、自由に出来る俺の立場が危うい。
元々信頼出来る人間を探して貰っていたし、情報が漏れた時の地盤を固める為の話は既にテリーとしていたので、今回の件で改めて実感したのだろう。
なので確認という意味が大きかった。
ポーションの食材への効果はテリー曰く大発見の様だ。
輸送や保存技術が発展していないこの世界ではどうしても質の低い食材を食べざるを得ない。
金銭面に余裕がある人間や、一定以上の売り上げを稼ぐ食堂などでは十二分に恩恵を得られるだろう。
俺としてもこの世界の食に対する関心や発展を期待しているので、情報を王家経由で発表される事に嫌悪感はない。
ジャンダーク家は王から信頼を得て、王は民から忠誠を得る。
誰も不幸にならないこの話はすぐに伝えられる事になった。
「どれもこれも学者達がまだ発見できていない情報なのだが、この3日でこれだけ見つけてくるのはいやはや……」
違う意味でまだまだ目を離す事は出来ないなと、嬉しいやら悲しいやらという感じのテリーだ。
報告を終え、水浴びでもしようかと歩いてるとマリアが飛び込んできた。
「うわっ!?」
「クラウちゃん、聞いたわよ! ポーションで食材が美味しくなるんだって?」
「そうだけど、見つけたのはミシェルだよ?」
「色々試したいから分けてくれないかしら? もちろんお金は払うわよ」
「お金はいいよ、作るための土地やら機材やらも用意してもらったものだし」
「だーめ、家族でも高価な物をタダでも貰うなんて出来ないわ」
変な所で真面目なんだから。
家族にならどんなものでもあげるのに。
「じゃあそのお金は料理に関する物に充ててよ。ご飯が美味しくなるのは俺も嬉しいからさ」
「欲が無いんだから、わかったわよ」
チュッと頬に口づけをして走り去るマリア。
母親だが綺麗なお姉さんの見た目なマリアは、いくつになっても可愛らしい。
その日から男爵家は慌ただしく動いた。
ジャンを中心に戦闘訓練を行い、テリーとマリアを中心にポーションの効果を試していた。
兵士達から鬼教官と恐れられていたジャンはあの日を境に更に訓練に力を入れていた。
お陰で日に日に体が大きく顔が死んだ兵士達が増えたのだが、マリアとミシェルが試した料理を振舞うとポーションを量産しなければと躍起になってダンジョンに志願するようになったらしい。
ジャンも負けられないと言っていたが、食に対する情熱というのは恐ろしくもあるものだ。
マリアはジャン達が集めて来る下級ポーション、俺が用意する様々な効果のポーションで発見の連続らしい。
猛毒だが味が絶品だというオーガダケというキノコを解毒ポーションに漬け込むと毒が消え食用になる、ポーションは消臭効果があり今まで敬遠されていた魚を料理に組み込みやすくなったなど、今までの食の常識が覆り続けている。
それを纏めているテリーは、あまりの情報量に頭を抱えているが嬉しい悲鳴なのだから頑張って欲しい。
そんな俺はちょくちょく手伝いをしながら土を弄っている。
農家のスキルを上げる時に畑を作り今では様々な野菜や草を育てているが、これが楽しい。
前の世界では無縁だった農業も良い所も悪い所も知り、今更農家さんに感謝で一杯だ。
ただ遊んでいるだけではない。
ポーションの有用性を応用できないかと土に撒いたところ、作物が一回り大きく味も良くなり、成長速度も上がるという発見をしていた。
最初は肥料のような役割を期待していたのだが、まさか嬉しい誤算が起こっている。
今後はこの情報も王家に回して農家の人々が少しでも豊かになってくれれば喜ばしい限りだ。
更に驚いたのが回復魔法だ。
エリアヒーリングを掛けた一画が明らかにおかしい。
特に効果を発揮したのがポーション材料になる薬草群だ。
元々栽培出来ていた薬草は品質が抜群に向上し、栽培が難しいと言われる品種も試行錯誤をしていたのだが回復魔法で解決した。
これで上級ポーションの材料や更に効果の高い物を作り出しやすくなりガッツポーズをしたのだが、テリーはこれを秘匿情報にすると言い出した。
回復魔法は現状教会が独占状態で、更に力を与えるのはまずい。
今はこのクラウ農場だけの技術にするべきだと言われ、納得した。
俺には医学の知識が無いし、今後はもっと助かる命が増えればいいなと思いその問題の解決も課題の一つに加える。
そんな日々を3か月ほど過ごした日、テリーからついに王都への訪問を伝えられる。
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