第19話 食う寝る戦う

 俺達は交代を繰り返し、両方のパーティが3回ほど前に立った後その日のレベル上げを終える事にした。



「お疲れ様です坊ちゃん」


「ありがとう、ジャンも護衛お疲れ様」


「それにしてもまだまだ余裕がありそうですな、兵士達にも見習わせたいものです」


「程々に鍛えてやってよ」

 俺とジャンは野営予定の場所へ向かいながら雑談をしていた。

 ダンジョンには安全地帯と呼ばれる魔物が出現しない場所か転々と存在している。


 ボス前の部屋や5層置きの階段前など、決められた法則で存在する為やはり作為的な物を感じる。



「なんでそんな元気なのよお……」

 ミラが恨めしそうにこちらに声を掛けてきた。

 流石にこれ以上の戦闘は危険な為、20層のボス部屋の前までは俺達のパーティが戦闘を担っている。



「ミラ嬢、坊ちゃんが可笑しいのですよ。あれだけ戦えば私でも皆さんのようにクタクタになるはずです」


「ジャン、ミラには優しいじゃないか」


「坊ちゃんは自分の規格では収まらないので、考えないようにしたんですよ」


「その内皆もそうなるさ……っと」

 俺はジャンと会話しながら邪魔をしてくる魔物を倒す。

 2度目の戦闘タイミングで盗賊の職を極めていた。

 自然と索敵も行えるようになったのは便利だ。


 今は剣士の上級職【剣豪】についたのだが、上級職は予想通り通常の職より成長が遅かった。

 低級職が成長を10とすれば上級職は3だ。


 とはいえユニークスキルのお陰で今回の合宿中には極められるかそれに近い所まで上がるだろう。

 心の中で神に手を合わせる。



「さあ着きましたぞ」

 ジャンはそう言って後ろでクタクタになりながらも付いてきた3人に声を掛ける。



「もうお布団じゃなくてもいいから横になる」

 ミラがそう言って地面に横になり始める。



「流石にまずいよ、スタミナポーションを飲んでもダメだった?」


「あれだけ短時間に回数使えば効果も何もないわよ、最後の方はただの水分補給でしかなかったわ」

 回復ポーションにはクールタイムのようなものが存在しているようだった。

 てか効かないなら言ってくれればいいのに。



「エリアヒーリング」

 俺は回復魔術Aランクの範囲回復魔法を唱える。

 突然辺りが明るくなり皆の体が光り出す。



「どう?」


「どうじゃないわよ……」

 何故か呆れ顔のミラ。

 納得がいかない。



「クラウ、ミラを責めないでくれ。怪我を治す魔法ってのは貴重なんだ。俺達兄妹が3人も使えるのが本来おかしいんだ。そんな貴重な回復の高ランク魔法を、疲労回復に使ってる。後はわかるね?」


「クラウは規格外……」

 ライルまで苦笑いをしている。



「坊ちゃん、回復魔法ってのは選ばれし存在なんて言われて教会なんかに囲われるような扱いだ。坊ちゃんを見てると有難みも何もないがね」

 ガハハと笑いながら説明してくれたが、俺の力も神が与えてくれてその力で覚えられるようにしてるんだし何もおかしくはないよね!



「まあ疲れも取れた所で野営の準備しますか!」

 ジャンは話を切り替える様に仕切ってくれる。

 テントの設営は男衆に任せて、俺はミシェルの所へ向かう。



「ミシェル、今日の料理に必要な物を言ってくれ。取り出すから」


「有難うございますクラウ様。それではフライパンと魔導コンロ、食材は肉と野菜を何種類か出してもらえますか。まな板と包丁とお皿、調味料もお願いします。あ! 後寸胴もお願いできますか?」


「気合が入ってるのは良いけど随分調理するんだね?」


「寸胴は食材の下ごしらえで使うんですよ、先程ポーション貰えましたので」

 えへへとやる気を見せるミシェル。

 どうやら今日使う食材はフライパンで炒めるようだ。

 その食材を、下級ポーションでつけ置きするということだ。



「本当にこの方法で美味しくなるのかな?」

 ポーションは味的には不味くは無いが美味しくも無い液体だ。

 一応薬でもあるし、料理に使うのは少し不安になる。



「大丈夫ですよ、私の料理スキルがそう言ってます。それにポーションはつけ置きから出すときにしっかり流しますので」


「そういうなら任せるよ」

 言う通りの物を取り出し、俺は皆の所に戻る。


 アイテムボックスには容量の限界があるので何でも詰め込むとはいかないが、流石に食べる時に簡易的な椅子やテーブルになる物が欲しいと思っていた。

 なので木の板を複数個持ってきている。



「アースピラー」

 俺は地面から柱を何本か生やし、中途半端な所で止めるようにする。

 そしてその上に木の板を置けば、簡易的なベンチとテーブルの出来上がりだ。



「とはいえ少し不安定さがあるし、改善の余地がありそうだ」

 俺は座り心地を確認して今後の反省をする。



「そりゃまあ土に木の板乗せただけですけど、それをやれる事が可笑しいのですが坊ちゃん……」

 魔法使いにとって魔力の欠乏は命取りだ。

 回復魔法もそうだが、生活に応用した使い方をする人間はいないらしい。

 実に勿体ないと思うんだ、それ。



「出来ましたよー!」

 ミシェルが料理を作って持ってきてくれた。

 比較的時間が掛からない物を選んで作ってくれたので、腹ペコな俺達にはありがたい。


 肉野菜炒めとサラダ、それに家でミシェルが焼いたパンだった。

 うちで焼くパンは既に売り物を凌駕し、前の世界で食べなれたふわふわに近づいている。

 アイテムボックスは時間停止こそないが快適な空間の為数日持ち歩く分には問題もなかったので、作ってもらっていた。



「いやあ流石に腹がペコペコで、食べさせてもらいます」

 ジャンはいつもよりも質のいい料理を目の前に、掻き込むように食べ始める。

 それを見て皆も食べ始めたので、俺も食べようかな。



「……ん!?」

 俺は最初にサラダを口にした時に、圧倒的な違和感を感じた。

 シャキシャキなのだ。

 今取ってきたような新鮮な野菜、溢れる水分、軽快な歯ごたえ。



「ポーションか!」

 余った下級ポーションにつけ置きされた野菜は、まるで畑に植えられている時のような鮮度になっていた。

 これは今後も使えるな……。



「いや、これ凄くない!?」


「驚いたな」


「坊ちゃん達はいつもこんな良いもの食ってるんですかい!?」

 ミラとライルも驚きながら食べる手が止まらない。

 ジャンも流石に違いが分かるようで、驚きのあまり食べる手が止まった。

 マックスは相変わらず無言で食べ続けてる、いつもより減りが早いから美味しいんだろう。



「ミシェル、お手柄だ」


「クラウ様に授けられた力のお陰ですから」

 俺達はにこやかに笑いあって、食事を楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る