第18話 強化合宿

 俺達6人はダンジョン内に潜っていた。

 最初にジャンから「今の皆様の実力を観たい」と言われたので何度か戦闘をすると、納得するように頷く。


 前回ボス戦をした10層に到着するとジャンは「私の実力をお見せします」と言いソロでボスに挑んでいた。

 今回は通常ボスのホブゴブリンだったが、槍使いスキル【スパイラルランス】を使うと胴体が抉れるように穴が開きあっという間に終わってしまったので説明されるまでも無く相当の実力を持っている事を判断出来た。



「クラウ坊ちゃんは頭一つ抜きんでてますね、私も居ますし少し奥で戦闘をしましょう」

 貴族の子供を御守りするという当初の目的から、限界を見極めて戦闘経験を積ませるという方針の変更を簡単にしてしまう所を見ると、ジャンの戦いに対する気持ちは相当高そうだ。


 今俺達が居る階層は18層だ。

 ここまで潜ると出現する敵も様変わりする。


 武器を器用に扱い身体能力の高いコボルト種、天井の陰に潜み敵を急襲するバット種、低い階層では無かった魔法による攻撃が主なエレメント種。


 この辺りのモンスターを難なく倒せるようになれば、一人前の中堅冒険者として認められるレベルだ。

 それを最年長10歳の子供パーティが挑むのだから凄さがわかるだろう。



「マックス兄さん、右に3体!」


「ありがとう、ロックシュート」


「ライル兄さんは正面のコボルトを! 私はそこに隠れてるバットをやるわ」


「了解だミラ。ダブルラッシュ!」

 今は俺を除く3人でパーティを組んで戦闘を行ってもらっている。

 能力的には十分だろうというジャンの了承を得てだ。


 信頼関係が出来上がってる3人は、索敵に長けるミラの指示の元的確に敵を対処している。

 体力的に限界が来たら、残りの3人と交代という事になる。



「まだまだ続くよ」

 俺はそういうとゴブリンの角笛を吹く。

 難なく倒してもまた次の御一行が現れるのだ。



「ほっんと、クラウの鬼!」


「自分たちの為とはいえ、きついね」


「いじわるクラウ……」

 憎まれ口を叩きながらも直ぐに戦闘準備をする3人。

 危なくなれば俺やジャンが居るし、いざとなればAランクの回復魔法を掛ける。

 だから今は精魂尽き果てるまで戦うのだ!



 そんなこんなで1時間ぶっ通しで戦ってもらった。

 負った傷以上の体力を失った3人は、既に立ち上がるのも儘ならない程だ。



「お疲れ様、はいどうぞ」

 俺はそう言うとスタミナポーションを3人に配る。

 アイテムボックスを手に入れたお陰で在庫は沢山持ってこれた。

 息を切らしながら飲み終わると、のそのそと後ろに下がっていく。



「次は我々ですかな?」


「ジャンはミシェルの護衛ね、後ろに逃した時だけ頼むよ」

 今度は俺、ジャン、ミシェルの3人パーティで戦闘を行う。

 とはいっても俺が倒し、共有でミシェルの経験値を上げるだけだ。

 まだまだ戦う力が無いミシェルの守りにジャンが入る。


 どうやら試したところ共有は4人までが限界なようだった。

 いずれは主だった人間に共有を覚えてもらい、先導役を複数人作りたい。


 俺は軽く体をほぐすと、ゴブリンの角笛を吹く。

 ダンジョンの特異性なのか、倒しても倒してもモンスターがやってくる。

 無限に湧くのは今の俺達にはありがたい事だ。



「来ましたぞ!」


「分かってるよ。ブリザード」

 唱えた魔法はBランクの基本属性魔術、ブリザード。

 周辺の気温が一気に下がり、範囲に巻き込まれた敵は漏れ無く凍る。



「わかっては居ても相変わらずだ、坊ちゃんだけは敵にしたくないな」

 ジャンは苦笑いを浮かべながら魔法が放たれた場所を眺めている。



「ファイアウォール」

 凍ったままだと邪魔になるので、氷を解かす。

 そうすることで魔物は氷と共に跡形も無く消えた。



「お、宝箱ですぜ!」

 口調が崩れて賊のような口調になってるぞジャン。


 俺が倒したことで運のステータスが働いた。

 更にアイテムボックスを手に入れて幸運のクローバーを借り出せた為、10体程度を倒すと宝箱は3つ出現した。



「じゃあさっさと回収して次いくよ」

 俺は宝箱を開ける。

 中に入ってたのは下級のポーション2つとコボルトの毛皮だった。



「お、毛皮はいいですぜ。冬は暖かくて重宝される」

 ジャンがコボルトの毛皮を肩に掛けるように説明すると、山賊の出来上がりだった。



「ポーションはいらないな……」

 ポーションの在庫は沢山ある。

 それに効果も中級や上級の物がばかりだったので、正直扱いに困っていた。



「では、私が頂いてもいいでしょうか?」

 どうしようかと悩んでいると、ミシェルが欲しいと言い出した。



「いいけど、貰ってどうするんだ?」


「料理に使ってみようかと思いまして」

 ミシェルは俺には思いもよらない用途を提案して来た。



「大丈夫なのか……?」


「はい、恐らく使えると思います。料理人の職に就くまでは考えもしませんでしたが」

 料理人の職に就いたことによる閃きだというなら、信じても良いだろう。



「じゃあミシェルにあげるよ」


「ありがとうございます!」

 ほくほく顔で受取るミシェルは、レベル上げをしている最中だというのに上の空だ。

 最低限の護衛能力を手に入れて貰ったら、生産系を鍛えた方が良さそうだな。


 そう思いながら俺はひたすら笛を吹き敵を倒すループを行っていた。

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