第16話 ボス・ゴブリン3兄弟

「予定ではここまで進むつもりはなかったからね……」


「俺は大丈夫だと思うよ」


「クラウがいるし……」


「大丈夫大丈夫!」


 慎重派のライルは、多数決により折れる事となった。

 ボスとはいえ、10層だ。

 今潜っているダンジョンは報告で37層まで確認されている。


 10層のボスはゴブリンだという。

 遅れを取るつもりはない。



「じゃあ入るけど、慎重にね」

 ライルが先頭に立ち、ボス部屋に入る。


 ゴゴゴ、と重い音を立てながら扉を開くと、大部屋にゴブリンが居る。

 見た目は普通のゴブリンより少し大きい位か?



「報告通り、ゴブリンみたいだね」


「とは言えボスだ、警戒するんだよ」


「わかってる!」

 戦闘にライル、その後ろに俺、マックス、ミラと陣取る。

 ゴブリンはこちらに気が付き警戒するが、動く様子は無い。



「じゃあいくよ」


「僕から行くね……ファイアランス」

 マックスが先制の魔法を放つ。

 ゴブリンは魔法を確認すると回避をした。



「流石に普通のゴブリンよりは動けるみたいだね」


「クラウとマックスは援護してくれ! ミラ、無理しない様に近づくよ!」


「「「わかった」」」

 俺達パーティは兄妹なだけあって、息の合った動きが出来ている。

 俺のスピードであればすぐに倒せるかも知れないが、能力が上がるのと同時に経験も必要だ。

 ここはサポートに徹する。



「【鼓舞】」

 俺がそう言うと全員にバフが掛かる。

 魔物使いで覚えるスキルだ、パーティの強化スキルで攻撃力が上昇する。



「やあ!」


「ギィ……!」

 ミラがスピードの乗った一撃を加えると、押され気味にゴブリンが受け止める。



「貰った!」

 ライルがすかさず追撃を入れようとすると、横からから動く二つの影が。



「くっ!?」


「「ギャギャー!!」」

 ライルは素早く現れたゴブリンの攻撃の受け止めるが、体制が悪く後ろに下がる。

 ミラも難なく攻撃を躱している。



「この階層はゴブリンと聞いてたけど、複数体なんて聞いてないぞ!?」


「もしかして……」


「「「「レアボス!?」」」」

 全員が声を揃えて叫ぶ。

 目の前には3体のゴブリン。

 報告では1体しかいないはずだ。


 俺の幸運値はここでも働いた。

 極稀にポップするボス。

 勿論強さは通常より跳ね上がる。

 滅多に現れない為、情報も少ない。

 経験も必要だと思いサポートに徹していたが、ここは俺が出た方がいいかもしれない。



「クラウ、このままやらせてくれ」


「兄さん?」

 慎重派のライルが俺の気持ちを察したのか意見する。



「確かにクラウの強さならすぐ終わる、でもそれじゃ僕たちは強くなれない。だからこのまま戦わせてくれ」


「……わかったよ。怪我ならいくらでも回復するから、とことんやってみて!」

 こちらを見て微笑むライル。



「よし、ミラは1体相手してくれ! 僕が2体を相手にする、マックスは合わせて魔法を頼む!」


「任せて!」


「やる……」

 自分たちの力で討伐しようと闘志を燃やす3人。

 なら俺は最後までサポートに徹する。



「「「グェエ!」」」

 敵のゴブリンは連携してこちらに突っ込んできた。



「……やらせない!」

 マックスが土の針、ロックニードルを発動する。

 足元に現れた魔法を避けるようにゴブリンたちは分散する。



「マックス兄さん流石! アンタは私が相手よ!」

 ミラは孤立したゴブリンに向かって前進する。



「いくぞ、スラッシュ!」

 ライルは敵ゴブリンの隙を突き必殺の一撃を入れる。

 連携力のあるゴブリンも、乱されればただの通常ボス程度の力しかなかった。


 ライルの攻撃に成すすべもなく切り伏されるゴブリン。

 それを見た仲間がライルに突進してきた。



「ファイアランス」

 マックスが唱えた魔法は、激高したゴブリンに突き刺さった。



「こっちも終わったよ!」

 ミラも少し遅れて倒せたようだ。



「よし、他にはいないか?」


「うん、索敵には引っかからないよ」

 ミラの確認で、敵ゴブリンは殲滅完了を確認できた。



「まさかこんなことになるとはな」


「立て続けに起こると、有難みもないね」

 ミラがそう言うと、笑いが起こる。


 ボスを倒したことで、次の階層への階段が出現した。

 それと同時に宝箱が出現する。



「あれは!?」

 宝箱を初めて見る俺は柄にも無く興奮してしまう。



「ボス報酬だね、低階層は大体あまり価値の無いアイテムだったと思うけど」


「レアモンスターだったしね」

 幸運のブローチに続き、とんでもないアイテムが出るかと期待に胸が膨らむ。



「クラウがあけてくれ」


「俺が?」


「立て続けに起こっている出来事はクラウの幸運値が関係しているのは明らかだろう、だから頼む」


「うん、わかった……」


 俺は宝箱の前で立ち止まる。

 ゴクリ……

 初めての体験だ。

 息が詰まるほど心臓が跳ね上がる。



「じゃあ、あけるね」


 キィィ

 音を立てて開いた宝箱の中に、小さめのラッパのような物が入っている。


 ゴブリンの角笛 ランクB

 吹くと魔物が集まる笛。

 鳴らす音と回数により集まる数が変わる。


 これは今の俺達にピッタリのアイテムだ。

 ダンジョンとはいえ魔物はまばらに存在している。

 潜る事よりも敵を倒しレベルを上げるために来ていたのだ、これで効率が上がるだろう。



「これって?」


「ゴブリンの角笛だって。吹くと魔物が集まるみたいだよ」


「ええ!? 危なくない?」


「使う場所やタイミング次第だよ。今の俺達にはピッタリだ」


「あ!」

 俺が言ったことを理解したようだ。

 ミラは感心したように頷く。



「お手柔らかに頼むよ」

 ライルは少し苦笑いするようにお願いをしてきた。


 ジャンダーク領ダンジョン10層を突破した。

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