第11話 母は強し
俺はマリアの待つリビングに来ていた。
「あらクラウ、どうしたの?」
「母さん、話があります」
転生者として知られてはいるが、この世界に来てから極力子供の振る舞いをしていた俺は、珍しく真面目な言葉でマリアに話しかける。
実際の年齢に精神年齢が引っ張られるのか、真面目過ぎる振る舞いよりも楽に過ごす方が性に合っている。
「俺にダンジョンに潜る許可を下さい」
今回の計画も、俺の自由な行動が無ければ成せない。
幸いこの世界にはダンジョンがあり、我が領の近くにも存在していた。
ここで集中的にレベル上げをしてあわよくば深層のドロップも狙えれば、計画は進む。
「あなたはまだ5歳なのよ、無理をしなければいいわ」
「ですがこのままの状況では戦争を仕掛けられた時危険が」
「難しい事はわからないけど、いいわよ」
「これが上手く行けば、この領地は更に発展して……え??」
テリー程ではないが、割と過保護気味に育てられている自覚はあった。
だからこそ時間を掛けて理解を得ようとしていたのだが、あまりにもすんなり了承を得られて気が抜ける。
「なんて顔してるの。クラウがそうしようと思っているなら、私は止めないわよ」
「ですが今までは魔物を狩るにも安全が確保出来ない限り許されはしなかったのに」
「クラウは私の子供です、心配するのは当たり前よ。でも前の世界の記憶もあるんだし、あなたが無理に命を懸ける気はないのはわかっているわ。無理にこちらの気持ちばかり押し付けても、窮屈になるでしょう?」
そういうと話を続けるマリア。
「確かに心配は心配よ、それでもあなたが特別な力を持っているのは私でもわかる。それにクラウの能力は、神様があなたに自由に生きて欲しいという気持ちが表れてる気がするの」
俺も最初に転職官のスキルを見た時に同じことを考えていた。
数多く存在するスキルから自分の自由度が高いものが選ばれているのは、あの空間で神に言われた言葉と合致する。
そこまでの事は詳しく話していないのに、俺と同じ答えに行き付いたのか。
我が母ながら、すこし尊敬する。
「もちろん条件は付けるわよ? 一人で入るのは禁止だし、危険だと判断したらすぐに逃げる事、無理はしない事、それと私の夜ご飯を毎日食べる事よ?」
ふふふと笑うマリアは母親として100点の存在だ。
その大きな愛を感じて、俺は頷いた。
俺はこの世界で名声や富を求める訳でも無く、ただただこの幸せな空間が広がる事を願っている。
皆が皆優しい世界なんてものは存在しない、分かってる。
それでも俺は家族の為に、家族が守りたいものの為に少しでも努力する。
でも理想はのんびり過ごす事だから、兄には後継ぎとして頑張ってもらうけどね。
その日の夜の食事で、テリーから俺の意見を皆に伝えてくれた。
「私もついてく!」
そう息巻くのはミラだ。
何かと俺の傍にいるミラは、なんだかんだ兄妹でも一番話をしている相手だ。
「僕も強くなれるなら行きます」
「クラウが行くなら僕も行く……」
ライルとマックスも参加したがっている。
ライルは10歳、マックスは8歳になっていた。
この世界では15歳で成人になる。
そうなれば大人の世界の仲間入りだ。
誰よりも誠実で真面目なライルはその時を見据えての発言だろうが、マックスは少し違うような気がする。
「あらあら、皆仲良しね」
「危険だ、だめだ! ダンジョンだぞ、わかっているのか? 怖い魔物が沢山いるんだぞ?」
テリーとマリアは意見が割れているようだ。
「さっきの父さんの言い方では、クラウに行かせる事は賛成だったのでは?」
普段はあまり自分の意見を言わないライルだが、今日は真っ先にテリーに声を上げる。
「それはそうだが……だがお前たちは」
「聞き捨てなりません。クラウは僕たちと違うと? むしろクラウこそ一番幼く守るべき存在です」
珍しく怒りを見せるライルに皆驚いていた。
「それに今はクラウが上質なポーションを作ってくれます、実力だってある程度は父さんもご存じでしょう。皆に無理はさせません、だから許してください」
「……わかった。だが最初は父さんもついていくぞ!」
「ダメです、何のための少数選抜だと思っているんです。領主の不在が一番怪しいではないですか」
俺はライルに援護射撃をするように反論すると、落ち込んだテリーは体を丸くしていた。
凶暴な魔物にも単独で立ち向かえる王国有数の騎士は、息子たちに尽く打ち破れていた。
まあまあと慰めるマリアを見るテリーは涙目になっていた。
民や兵を選ぶ時間などもあるため、ダンジョン探索は最初は俺達兄妹だけで始める事となった。
ここで力を付ければ、話で聞くより選んだ民も納得するだろうし。
俺は回復薬を作り準備を進める。
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