第10話 クラウの策

 5歳になった俺は、テリーに話を持ち掛けに執務室に行く。


 コンッコンッ

「クラウです」


「はいっていいぞ」

 了承を得て、室内に入る。


「こんな時間にどうした?」


「今日は領地の話で来ました」


「相変わらず真面目だな」

 テリーは父親だが、俺が転生者である事を知ってる数少ない一人だ。

 5歳の息子の話を馬鹿にせず真面目に聞く体制を取る。


 今は家族にしか言っていないが、いずれ味方となる人間を増やすために信頼の置ける人間を増やしていきたい。



「信頼のおける領民を選抜してほしいのです。出来れば兵士からも」


「信頼か……まさかアレをする気か?」

 テリーは勘付いたようで、質問をしてくる。


「はい、転職をさせようと思います」


「それを行う利点と課題はわかっているか?」

 試すように質問を続けるテリー。


「まず利点は領内の繁栄、そして防衛力の向上です。専門的な能力を伸ばしていけば必ずスキルや技能を手に入れます。その力を領内の為に使ってくれる人を探して欲しいのです」


「それは誰でも思いつくな。だがそれだけではデメリットの方が大きくはないか?」

 現状俺の薬で健康な成人率を上げ、労働力の確保は出来ている。

 防衛的にも危険度Aの魔物をテリー単体で狩れる戦闘力を有し、回復薬の恩恵を受けた兵士の力も向上していってる。


 更に上を目指す事は良いが、その分情報漏洩の危険性が高まる。

 現状ジャンダーク家の戦闘力は周辺貴族に目を付けられ、薬の出回りによる領民の活気も問い合わせが絶えない状況だ。

 今はテリーが何とか抑えているが、これ以上は無理があるだろう。



「はい、なので情報が漏れるのを出来るだけ遅らせる為に忠誠を誓える人間が必要なのです」


「情報が漏れる事が前提なのか?」


「現状でもギリギリで躱している状況です、遅かれ早かれ俺の存在はバレると思います。ならば対抗できるのは、手出し出来ない戦力と有益な生産力の向上を目指す事しかないです」

 このまま隠れ続けては上手く事を運べない。

 さらに実力行使を行われたときの損害が抑えられない。


 俺一人なら、家族だけなら何とでもなるだろう。

 だが俺はジャンダーク家が愛する領民も守りたい。

 その為に手出しできない状況を作り出したい。



「情報が相手に掴まれた時に、既に手を出せない状況を生み出せばいいのです。実力行使も難しい、生産力や物資が魅力的。そうやって気軽に手出しの出来ない状況を作り出せば、いざという時も領民を守れます」


「生産力が魅力的、というのは逆に狙われる理由にならないか?」


「魅力的だと思わせるのは周辺貴族ではありません、王国の首都、王族に対してです」


「そんな事が可能なのか?」

 疑問は最もだろう。

 だが俺は可能だと踏んでる。


 この世界には努力では到底抗えないスキルと技能が存在している。

 レベル10剣士とレベル20狩人が剣で戦うと同格の戦いが出来る程度には職業で左右されるのは知られているし、それは生産に関しても同じだ。


 この世界に職人は5万と居るが、貴族に認められる者は一握り。

 更に上の者となると片手で数えられる程度だろう。

 名工と呼ばれる人間は、いずれも上級職と技能を保持している。


 理不尽かもしれないが、この世界の理だ。

 そしてその理に沿って俺はこの領土を強化する。



「俺が農家と薬師をマスターしているのは知っていますね?」


「ああ、勿論。その恩恵は既に受けているからな。だがそれだけでは王が気に入るには不足しているぞ」


「職業はその職に合った作業や訓練を行う事で上昇していきます。ですが生産職でも魔物との戦闘でレベルと共に熟練度を稼げることが確認出来ました」


「それはクラウのユニークスキルの影響もあるのではないか? 父さんも実際に転職しているが、同じような成長は無理だぞ」


「まずは俺が上級職を目指します、勿論生産職を優先して。そして王と懇意になれる関係を作りつつ、領民にも様々な職に就いてもらいます。そうすればこの領土に戦争を仕掛ける事自体が国に反旗を翻す事になると思います」

 俺のイメージではまず生産系のSランクを取る。

 優先すべきは防衛に関する物が良いだろうが、余裕があれば美術品などに対しても有用な職を取りたいと思っている。


 そして王族との関係や純粋な兵士の戦力増強で簡単に手を出せない状況を作り出し、その間にどんどん国に必要とされる人材を生み出す。

 成長チートを持たない領民には時間を掛けないといけない。


 だが選抜して集中的にレベル上げをすれば、少数であれば上を目指す事は可能だ。

 少し無理なペースで討伐を続ける必要があるため、口が堅い以外にも忠誠心のある人物が必要だった。



「それが上手く行く可能性は?」


「正直5割方成功すれば良いかと思っています。ジャンダーク家に忠誠を誓える人物が一定以上いる事と、この国の王が強欲で無く、指揮力も高いと有難いのですが」


「滅多な事を口にするものでは無い。国王は先の戦争で陣頭指揮を執り、民や臣下の忠誠も厚い。むしろ義を重んじる武人のような人物だ」

 なるほど、それは良い情報を聞いた。

 これで俺の作戦成功率は少なからず上がる。

 義を重んじる人物なら俺も好きになれそうだ。


 美術品と思っていたが、高品質な武具や魔道具を作れるようになる方が良さそうだと判断した。



「勿論決断は父さんに任せます。俺は最低限家族を守る事は約束します、ですが今のままでは周辺貴族に結託された際に領民への被害は抑えられません」


「5歳なのに守るなんて、相変わらずな事を言うな。確かにこのままの状況でクラウの事がバレるのは不味いと思っていたんだ。少し時間をくれないか」


「わかりました、それでは失礼します」

 そう言うと俺は部屋を出る。

 さて、次は母さんへ話をしないとな。

 俺はその足で母のいるリビングへ向かう。

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