第8話 告白
「……え?」
俺は思わず動揺する。
「何言ってるんだいミラ?」
テリーはなだめる様に言う。
「……だって、頭を打った日から変だよ。丁寧な言葉使いをする時もあるし、その時から剣を学びたいって言って……」
違和感を感じ続けてたミラは、いつも見て来た弟の変化に戸惑いを隠せないようだった。
無邪気な子供ながらに、細かな変化には敏感なようだった。
「うん、わかった。お姉ちゃんの疑問も含めて、皆に秘密を話すよ」
俺はそう言うと、家族を集めて秘密を話す事にした。
不安が無いわけではないけど、大丈夫だろう。
家族が集まるリビングで、俺は口を開く。
「まず最初に、ごめんなさい」
俺は皆に秘密を抱えて生きる事に罪悪感を覚えていた。
どんな子供でも、弟でも愛情をくれている皆を騙しているような気がして。
皆は黙って俺の言葉を聞いている。
「最初に父さんとお姉ちゃんには話をしたんだけど、僕にはユニークスキルがある」
最初に話をしていた転職官のスキルに、残りの能力も全て話すことにした。
皆は驚いたが、それでも口を開かない。
そして俺が前世の記憶を持つ人間だということを話始める。
「僕は……いや、俺は。前世の記憶を持っているんだ」
そういうと流石に我慢して来たミラが言葉を発する。
「クラウは、どこにいったの?」
いつもと違う俺の様子に、今まで接して来た本当のクラウが消えたような不安を覚えたミラは、泣きそうになりながら聞いてくる。
「信じて貰えないかもしれないけど、最後まで聞いて欲しい。」
きちんと言えば、伝わるはずだ。
俺は気を引き締めなおして続けた。
「前世の俺は、不慮の事故で死んだんだ。それは実はこの世界の神様が仕掛けた罠だったんだけどね。それで俺がこの世界で暮らしてくれたら、それだけでいいと。俺の世界の力がこの世界に流れてきて、それだけでこの世界が救われるんだと言われたんだ」
余りにも難しい話で理解が追い付いていない様子だが、質問は後で纏めて聞く事にする。
「俺はこの世界でどう生きても構わないと言われて、おまけで能力も貰えたんだ。それがさっきのスキルだよ。」
静かに話を続ける俺を見守る皆。
「そしてこの世界に前世の姿のままで移るか、新しく生まれ変わるか聞かれたんだ。俺は生まれ変わる事を望んだ。前世ではいい思い出も無かったし、この世界で生きるなら新しい自分になりたかったから」
前世の俺の時は、いつも人のせいにして何もない人生に満足した振りをして。
そんな自分が嫌で、でも変えられないから受け入れる事しか出来なくて。
そのまま時間が過ぎて、いい歳になってしまっていた。
「その時に、3歳になった時に意識をハッキリさせてくれとお願いしたんだ。だからお姉ちゃんの言うクラウは俺だし、今までと違うのも正解なんだ」
俺は自分の都合で3歳から人生を始める事を選んだが、余計な混乱を生んでしまったのかもしれない。
「俺はクラウとして生まれて、今の俺はハッキリと前世の記憶を取り戻したから、いつもと違うように見えるんだ。だから信じて欲しい、俺は今も昔も、ずっと同じクラウだって」
俺は話をしきって、頭を下げた。
そうすると皆から質問をされる。
前世の事、前世の世界、この世界の神の事を1から説明する。
皆は一様に驚いて、まるで物語を聞くかのように興味津々で聞いてきた。
流石に前世で成人どころか親より年上な事を伝えた時には微妙な反応をされたが。
ただ最後に皆が一つの言葉を掛けてきた。
「クラウはクラウだからね」
その言葉は、何よりも嬉しい一言だった。
俺はこれまでと変わらない生活をこの家族と送りたかった。
前世の記憶を持っているだけで、皆俺の本当の家族だったから。
少し安心すると涙が出て来て、何故かおかしくて笑ってしまった。
俺はこの家族の元に生まれてよかったと、この時改めて思った。
同時に使える物は何でも使って、この家族に恩返しをする事も決めた。
ファミリーコンプレックス、ファミコンなクラウはこの時に誕生したのだった。
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