第7話 打ち合い稽古
「……お願いします!」
俺は父であるテリーと対する。
「よし、こい!」
余裕そうな表情で構えるテリー。
俺はまず正攻法で突っ込んだ。
フェイントも入れず剣を振るう。
「ほう?」
意外としっかりとした振りで、テリーは感心している。
そのまま2撃、3撃……しかしその剣は軽々と受け流される。
俺は後ろに飛び退き体制を整えようとするが、テリーは隙を与えずに攻めて来る。
「攻めは合格だ」
満足そうに呟きながら俺に剣を振るう。
元々二刀流の父は一本の剣で打ち合いをしていて、更に力の半分も出していない。
なのにこの圧はなんだ。
稽古とはいえ初めて受ける他人の剣は、とてつもなく恐ろしく降り注ぐ。
「軽くとはいえ、剣を受け止めるか」
テリーとしては最初だし、今の流れで降参させようとしていたらしい。
必死に食らいついた俺は、辛うじて防げたのだった。
「よし、これはどうだ?」
そう言うと更に鋭さを増した剣戟を振るう。
「冗談じゃない!」
3歳の自分の子供を相手にしては少し鋭すぎる振りに、生粋の武人なのだなと感じさせられる。
予想以上の成果にテンションが上がってるのかもしれない。
俺は剣で受ける事を諦め横に回避する。
このままやられっぱなしなのも悔しい。
俺としてもこれから力を付けて皆を安心させなければならないのだ。
使うつもりの無かった切り札、スキル【スラッシュ】を発動する。
「!」
才の無い俺から放たれるはずの無いスキルに、テリーは驚く。
だが悠々と躱し、カウンターで俺を一突きする。
「がっ……」
「クラウ!? 大丈夫か!?」
自分の勢いも加わったテリーの突きをお腹に食らい、微かに聞こえるテリーの声を俺は聞きながらそのまま意識を失った。
「……ん……」
目を覚ますと外は夕暮れになっていた。
「随分寝ちゃったな」
「クラウ!? 目が覚めたのね! 痛い所は無い!?」
横にはミラが居た。
心配していたのだろう、少し目が腫れていた。
「ごめんお姉ちゃん。大丈夫だよ」
強がりでは無く本当に痛みが無かった。
体力自然回復大の効果だろう、既に強烈な一撃を食らったお腹はあざも無く回復していた。
「心配したんだから!」
ポカポカと肩を優しく叩くミラは、また泣き出しそうな顔をしている。
「ごめんごめん」
そう言いながら頭を撫でてあげると、少し落ち着いたようだった。
「クラウ! 目が覚めたか!」
俺達のやり取りが聞こえていたのか、部屋の外からテリーが駆けてくる。
「すまん、俺としたことが……余りにも予想していない攻撃で、思わず強く当ててしまった」
そういうテリーはとても沈んだ顔をしていた。
そして赤く腫れていた。
「父さん大丈夫!?」
「ああ、顔か? 母さんにこっぴどく怒られてな。でも当然だし、これくらい大丈夫だ」
そう言うと少し笑いながら頭を撫でて来る。
「それで、最後の一撃なんだが……」
聞きにくそうにしながらテリーは話す。
「あれはどうみてもスキルに見えた。剣士が覚えるスラッシュと違わなかった。だがクラウ、お前は……」
「あれはスラッシュですよ、父さん」
そういうと俺は自分の能力について話始める。
「僕には転職官というユニークスキルがあって、好きな職に就けるんです。ある日の夢で神様に教えられて、起きたらその通り出来るようになっていて」
「何故そんな大事なことを黙っていたんだ!」
「そんなスキルを話したって、信じて貰えないと思って……」
最初は能力をいきなり伝えてもいいかと思っていた。
前の記憶も含め家族は全員味方でいてくれる自信があった。
それでも話さなかったのは、信用されないのではないかと思ったからだ。
子供の御伽噺のような事を言われても、笑われて終わるのではないか。
それに自分自身が理解しきれていなかった部分も大きく、上手く伝える自信も無かった。
一ヶ月剣を振り分かった事も多く、そろそろ話そうかと思っていた。
俺も少し意地になってスキルを使ってしまったが、丁度いい機会だと思った。
「確かにな……だがもう少し信用してくれても良かったんじゃないか? 俺やマリアはお前の事を無下に扱いはしないよ」
テリーは偉大な父だ、俺の事をこれからも特別扱いせず大切に育ててくれるだろう。
大きな体に包まれる。
そんなやり取りを聞いてたミラが、ふと口ずさむ。
「……ホントにクラウなの?」
違和感を感じたミラが、俺が本当に隠していた部分を突いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます