第4話 家族で晩御飯

 拓海として意識を取り戻した日の夜、家族と食事をした。

 食卓にはジャンダーク家の面々が揃っていた。


 俺の父【テリー】は、見た目は少し強面だが優しさも兼ね揃えている。

 そして母【マリア】と兄【ライル】【マックス】、姉の【ミラ】も笑顔で食卓を囲んでる。



 ジャンダーク家の中はとても良い。良すぎるくらいだ。


 テリーとマリアは子供が4人も居るが未だに新婚のようにラブラブだ。


 ライルは剣に長け、頭脳も明晰で兄妹のリーダーとして俺達の面倒をよく見てくれている。


 マックスは逆に魔法の才を持っているのだが、他人に興味が無くいつも本を読んでいる。ただし家族に対しては別の一面を見せてくれるのだが。


 ミラは5歳ながら既に容姿端麗な見た目で将来有望だ。

 それに戦闘面に関しても一級品。二人の兄には負けるが剣も魔法も使える。


 実はこの3人には貴族の面々から子供との婚約の申し出が絶えないらしい。

 才能が知られている為、既に争奪戦となっているようだ。



 それに比べて俺クラウといえば。

 まだ3歳ということを抜きにしても凡才だ。


 生まれてから行われる鑑定の儀式で職は無し。

 能力も平凡で特筆すべきものは無し。


 これが平民だったら問題ないのだが、男爵とはいえ貴族なのだ。

 能力の優れた者が血を残し国に貢献する。

 俺みたいな無才な人間は疎まれ最悪捨てられても文句は言えない。


 恐らく神がくれたユニークスキルは見えない様にしてくれたのだろう。

 俺が権力に縛られないよう配慮してくれたのだろうし、感謝している。



 少し話が逸れたが、俺がこのように家族と共に楽しく食事を取れてるのは、出来た家族の元に生まれたからだ。



「クラウ、昼間頭打ったらしいな。もう大丈夫なのか?」

 父テリーは心配そうに聞いてくる。



「大丈夫だよ父さん、もう完全復活さ」

 俺は握りこぶしを作って元気な事をアピールする。

 子供だしこれ位しても大丈夫だろう。



「元気なのは良いけどもう少し落ち着きなよ」

 兄のライルが微笑みながら声を掛けてくる。


 何だこの優しさに溢れる世界は!

 前世の俺は友達も恋人も居なく、家族とも疎遠になっていた。

 いつも一人で過ごして何があっても心配される事なんてなかった。

 だからこその自由でもあったが、この人情が温かい。


 俺がどれだけ劣っていようとも、家族としての愛をくれる。

 ジャンダーク男爵家はそんな家族だった。



 今日の食卓はパンにスープ、それに干し肉が入ったサラダだ。

 ジャンダーク男爵は貧乏貴族、な訳では無い。

 この世界、食がそこまで発達していないのだ。

 食だけではない。


 我が家を見てみるだけでも一目瞭然だったのだが、まずトイレ。

 木の板の間に用を足し、溜まった物は定期的に川に流す。

 トイレットペーパーなど無く、拭く時は木片を使う。


 室内を照らす電気などは無いので、基本はロウソクを使う。

 貴族の応接間などには魔道具と呼ばれるライトが置かれているが、普段使いするほど安い物ではない。


 電気が無いので所謂家電に等しい物などは存在しないのだ。

 魔法で代用出来る物はある程度あるが、不便この上ない。



 この世界で使命などは無い。

 が、この家族には最大限恩返ししたいと思っている。

 俺の中にある今までの記憶が、その想いを強くする。



「どうしたの、クラウ? あんまり食べてないようだけど」

 母のマリアが心配そうに聞いてくるので、慌てて食事を続ける。



「あんまり急ぐと詰まるよ?」

 姉のミラまで心配してくる、かわいいな。


 その横でジーっと視線を向けるマックスがいるのだが、気が付かない振りをしよう。


 とりあえず自分の身を守れるように強くなろう。

 そうすれば考えてる恩返しも出来るようになるだろうし。



「ごちそうさま!」

 俺が勢いよく食べ終わると、家族が笑いだす。



「あらあら、口の周りが汚れてるわよ」

 マリアに言われて気が付いたが、慌てたせいで汚くしていた。

 まずはこの体に慣れる事から始めよう。

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