第3話 ジャンダーク家の三男

「ん……」


 気が付くと見知らぬ家で目を覚ました。

 どうやらこちらの世界にやって来れたようだ。



「ぼっちゃま! ぼっちゃま!」


 耳元で大きな声を出さないでくれ……

 寝起きも相まって渋い顔を浮かべながら声のする方を見る。



「ああよかった……呼びかけても目を覚まさないので……」


 涙を浮かべながらこちらを見る女性。

 この人物を俺は知っている。



 この屋敷、ジャンダーク男爵の雇われメイドの1人【ミシェル】だ。

 生まれた頃から俺についてくれているミシェルは、母親と同様の存在だった。


 俺はこの世界の貴族の三男【クラウ・ジャンダーク】として、転生をしたのだった。

 お願いした通り、今は3歳になる。

 勿論乗っ取ってしまった訳ではない。


 拓海としての記憶を今思い出したので戸惑う所ではあるが、元々この体で生活していた記憶は残っている。

 典型的な子供、という表現が正しいのだろうか。

 わんぱくで勝手に走り回りミシェルをいつも困らせていた。

 倒れた原因も勝手に走り出した俺が転んで頭を打って気絶していただけだった。



「ごめんよミシェル、怪我も無いし大丈夫だから」


「とはいえ気を失っていたのです、大事を取って部屋で横になりましょう。ああ、お医者様を呼んだ方がいいのかしら」


 オロオロするミシェルを少し可愛いと思ってしまった。

 元々15歳でこの屋敷に来たミシェルは、18歳の女性だ。

 顔立ちも悪くなく、あどけなさが残っている姿にドキッとする。



「医者は呼ばなくてもいいよ、でも少し横になるね」


 俺は安心させるために一声掛けて部屋に戻る。

 だがミシェルは少し困った表情をしていた。


 わんぱく坊主だったクラウがいきなり落ち着いた話し方になったのだ。

 困惑しないほうが可笑しいだろう。


 気が付かない俺に置いていかれないよう付いてきたミシェルは「やはり一度診て貰った方がいいかしら……」とつぶやくのであった。




「ではしばらくお休みください、私は飲み物を取って参ります」


 部屋に着いて横になった俺に、ミシェルは一礼をして出て行く。

 改めて布団の準備や飲み物の用意などされる自分は貴族なのだと実感する。


 この世界の事など全く勉強してこなかった為、これから情報収集は最優先になるだろう。

 ジャンダーク家の立ち位置も早めに知っておきたい。



「あ、そうだ」


 此方の世界に来る前に神が言っていた、ステータスという言葉を唱えてみる。


 すると目の前に文字が浮かぶ。



 クラウ・ジャンダーク

 年齢3歳 

 レベル1 職業 無し

 体力 10

 魔力 10

 腕力 3

 知力 5

 敏捷 5

 器用 3

 運命力 100

 魔法・スキル 無し



 まあ子供なのだから、当たり前だ。

 基準はわからないが、恐らく子供並みの能力だろう。


 ただ神はこうも言っていた。

 心身の強化や恩恵も与える、と。


 チートを望み過ぎていたか?

 実際目にしたステータスに拍子抜けしていると、画面の右下に点滅した矢印が見えた。


 その矢印を押す感覚で意識を向けると、画面が切り替わった。



 クラウ・ジャンダーク

 年齢3歳

 レベル1 職業 無し

 ユニークスキル

 状態異常完全無効

 体力自然回復大

 魔力自然回復大

 成長促進大

 成長補正大

 完全鑑定

 転職官



 紛れもないチートでした。

 よく聞く自然回復や成長に補正が効くスキルに鑑定、状態異常も掛からない。

 これだけで超人の域に達するであろう代表的なチートが並んでいる。


 だが一つ見慣れないスキル?がある。


【転職官】


 転職官とはなんだ?

 文字を見つめ考えていると完全鑑定が発動し詳細が出た。



「自分や他者の職業を自由に選択出来る。職業を極めて行くと上位の職業が選択出来るようになる」


 ここで言う職業とは就いている職ではなく、自分自身の能力に影響される職ということだろうか。

 自由に選択出来る、とあるのは、本来選べる物ではないのだろう。

 戦闘をしたくないのに戦闘職を授かったり、その逆もあるのかもしれない。


 そう考えるとこのスキルは、世界を楽しんでくれと言った神の心遣いなのかもしれない。

 落ち着いたら教会に感謝しに行かなければな。



 早速転職官を試そうと思ったが、ミシェルが飲み物を持って部屋に戻ってきた。


 天井をぼーっと眺めている(ように見える)俺を見たミシェルは、改めて医者に診せた方が良いのか悩むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る