第2話 異世界の神

「ん……ここは?」


 目を覚ますと真っ白な世界に居た。



「気が付いたかネ?」


 声のする方を見ると、宙に漂うピエロのお人形?

 不思議な光景に俺は何も言わずただ黙って相手を見ていた。



「君はトラックに轢かれて亡くなってしまったネ。そしてここは魂だけが来れる神の空間ヨ。ワタシは君とは違う世界の管理者、神のような存在ネ」


 次から次へと不思議な事を言われる。


 トラックに轢かれたのは覚えてる。

 魂だけ? 自分を見ると半透明になっている事に気が付く。

 そしてこのピエロは神に近しい存在。


 そこから導き出される答えは……



「君には異世界に行って貰う事になるネ」


 テンプレキター!


 逸る気持ちを抑えてピエロに尋ねる。



「えっと、まず自分が死んだのは理解しました。異世界は転移なのでしょうか、転生なのでしょうか。異世界は文明的にどの程度発展していますか? 魔物や魔法などはあるのでしょうか。それから」


「ちょっと待つネ。そんなに質問しないでくれるネ? きちんと答えるから落ち着くネ」


 神を困らせてしまった。

 年甲斐も無くはしゃいでしまっている。



「やっぱりキミを選んで正解だったネ。普通はもっと錯乱するものヨ。酷い時には魂が耐えられずに消滅してしまうネ」


 ピエロはうんうんと頷きながら満足げな表情を浮かべている。

 が、聞き捨てならない事を言いやがった。



「選んだ……?」


 俺の疑問に神は少し動揺した。



「選んだとはどういうことでしょうか。亡くなった魂を選んだ、という意味ではなさそうですが?」


「ええとネ……君を見つけた時に適した人物だと思ったネ……だから君に死んでもらって此方に来てもらったのヨ……」


 こちらを見ずに汗を垂らす神。



「という事は、俺は選ばれたために神に殺されたということですか?」


「殺すなんて人聞き悪いネ! ただ少し深く寝て貰ったり、テンションを上げたり、トラックの運転手を居眠りさせただけネ」


 ふーん、そういう事ですか。



「神はそんな事をしても許されるんですね。ああそうか、なんか異世界に行くのも利用されてる感じがするし、行かなくてもいいかなあ」


 少し拗ねるように言い放つと、更に神は焦る。



「待ってネ! 君が行ってくれないと困るネ! それに次の人を選ぼうにも力を使い過ぎてしばらく無理なのネ!」


 焦って次から次へとこちらに都合の良い情報を口走る神。

 こんなんでも務まるのか、神ってのは。


「なるほどー俺が行かないと困るんですね。そして次を用意する事も難しいと。ふーんなるほどー」


 そういうと神はしまった、という顔をしている。



「別にいいんですよ? 勝手に殺された相手の都合の良い様に異世界へ行くのは。ええ、勿論いいですとも。でも少しくらいこちらにも恩恵がないとなーって、ねえ。思いません?」


 なんだか意地悪し過ぎているような気がするが、貰えるものは貰っておきたい。

 それに都合よく利用されるのも癪だ、意趣返しをする。



「そっそうネ。勿論ただ行かせる事はしないネ。最大限出来る限りのサポートはするヨ。だから行ってくれるヨネ?」


 今にも泣き出しそうになっている神。

 これ以上は流石に罪悪感が勝りそうだ、素直に期待に応えよう。



「わかりました。俺が何をすれば良いのかわからないですが、行くのは構いませんよ」


 ほっという文字が見えそうなほど安心する神。

 こんなに人間1人に翻弄されていいのか神よ。



「キミが行ってくれればそれだけでいいのヨ。魂を送り込む時に地球のエネルギーを一緒に送り込むと、それで問題解決なのネ」


「ちなみにそのエネルギーが無かったらどうなってたんですか?」


「まず土地のエネルギーが足りなくて植物が枯れ果てるネ。その後は自然災害が不自然なほど増えて、最後は熱を生み出すことも出来なくなり生き物が生きられない大地になってしまうヨ」


「そんな大きなエネルギーを移動させて地球は大丈夫なのですか?」


「地球はとても長い間存在している世界ネ。僕たちの世界が赤子ならキミの居た世界は大人の世界なのヨ。だから少し分けてもらうだけで僕たちの世界は安泰ネ」


 なら後は俺次第って事か。



「ちなみに貴方の世界はどんな世界なのですか?」


「こっちには魔物と呼ばれる生き物がいるネ。動物もいるけど、凶暴だし力もあるヨ。その素材を使って道具なんかが作られているネ。魔法もあるし、技術の発展は遅いのヨネ……」


 テンプレキター!

 心の中で2回目の叫び声を上げる。



「キミには悪い事をしたし、きちんと恩恵は与えるネ。でも世界を壊すような事はしないで欲しいネ、生きている者達のエネルギーも大切なのヨ」


「安心してください、別にそんな事考えてないですよ。ただ生きていく為の力はあればあるほど嬉しいので」


「それだと嬉しいネ、細かい事は向こうに行ってから説明するヨ。心身を強くして色々能力も付けてあげるから、今回の事は恨まないで欲しいヨ」


「いえいえ、少し意地悪しすぎましたが貴重な体験をさせてもらえる訳ですし。謝って貰えたからそれでいいですよ」


 俺は他の人が中々経験出来ないであろう夢の異世界行の切符を手に入れた。

 ならばそれを楽しむことはあっても、恨むことはない。



「そう言ってくれたら嬉しいネ。キミの世界では見たことない事が沢山あるし、楽しんで欲しいヨ。ちなみに転移と転生は選べるヨ」


 なんとそこまで自由に選ばせてもらえるのか。

 別に今の自分に不満は無いけど、どうせ異世界に行くんだし新しい自分ってのも気になるな。



「じゃあ転生でお願いします。でも出来れば赤ちゃんはすっ飛ばして欲しいです、3歳くらいだと動けるだろうしありがたい」


「そうネ、了解ヨ。ステータスと言えば見れるようになっているから、向こうに着いたら見てみてネ。そこで説明も見られるようにしてあるヨ」


 どうやら不遇な異世界ライフは送らずに済みそうだ。

 ここまでやってくれる神ってのも珍しいんだろうな、寧ろ感謝しなければいけない気がしてきた。



「もしボクと話がしたかったら、教会でお祈りを捧げてネ。少しだけど話は出来るからネ」


「ありがとうございます。今更言うのは可笑しいかもしれませんが、ここまでしていただけるのであれば少しでも良い世界になるよう努力していきたいと思います」


「そんな気を張らずにネ、感謝してるのはこっちヨ。良い来世を送ってネ」


 そういうと俺の体が少しずつ消えていくのを感じる。

 次に気が付くのは向こうの新しい俺だ。

 今の俺とはここでお別れだな。

 ありがとう、拓海だった俺。


 ふっと意識を失う。

 地球の拓海は、ここで消滅したのだった。

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