第4話

結局僕は怪我をすることもなく山を降りることができた。

倉咲山の事を彼女は熟知しているのか、帰る際は獣道など一切通らずあっという間に舗装された道に出ると日が暮れる前に街へと戻れた。

「はい、お疲れ様」

バイクを倉咲山から一番近いコンビニに止めると栗見さんは腰にしがみつく僕の腕をポンと叩く。

バイクに乗ること自体初めてだった僕は落とされる恐怖から夢中で栗見さんにしがみついていた。

正直セクハラと言われても否定はできないほどに。

バイクが止まってからはそれを指摘されないかビクビクしていたが栗見さんはそんなの全然気にしていない様で僕の家を聞いてきいてきた。

「ついでだから送るよ」

栗見さんがコンビニで買ってくれたコーヒーを受け取り缶を開ける。

カシュという心地よい音と缶から伝わる水滴が右手を濡らす不快感が入り混じる。

「え、いいですよそんな」

「遠慮しなくていいのに。また私に抱きつけるんだよ」

またイヤラしくニヤニヤ笑う栗見さん。

この短時間でどうやら僕はからかいの対象に認識された様だ。

いい加減文句の一つでも言おうかと考えてると、コンビニから見慣れた人が出てきた。

「ん、なんだお前たち」

半袖ワイシャツに紺色のズボン、革靴は長年履いているせいか色褪せている。

フレームが金色のメガネが印象的な男は片手にコンビニ袋をぶら下げている。

今夜の夕食だろうか?

袋の中には弁当とペットボトルが二つ入っているようだった。

「島津先生」

数学科担当の島津卓久先生は君園学園の教師陣の中でも比較的若い分類にいる。

確かまだ30中頃だったはずだ。

その上でも高く顔立ちも整っているので身なりさえきちんとすればカッコいいとクラスの女子達が話しているのを聞いたことがある。

そうして見てみると確かに短髪に浅黒い肌ガッシリとした体格は男らしい。

栗見さんもこういったタイプの男が好みなのだろうか?

そんな好奇心で彼女をみると何故かマジマジと島津先生のことを見ていた。

見惚れているというよりは観察しているといった方がしっくりくるその動作、島津先生も少し困惑した表情をする。

「栗見に、千草か妙な組み合わせだな」

僕らを見合わせる島津先生は栗見さんに睨みを利かせる。

「栗見、そのバイクは何だ?うちはバイク通学禁止だぞ」

もっともな指摘に栗見さんはどう返すのかと見ていると。

「ああ、コレは兄のバイクですよ。修理に出していたんで私が代理で取りに行ったんです。千草くんとは今さっき偶然会いました」

そう堂々と嘘を吐いた。

「本当か?」

もちろん疑う島津先生だが栗見さんはまた意地の悪い笑みを浮かべていた。

「嘘だと疑うんですか?生徒を先生がこれは悲しい」

妙に演技めいた口調、けれど悲しいと言う言葉に反して彼女は妙に楽しげだ。

「それとも、私の家に連絡でも入れますか?ええ、私は構いませんよ。後ろめたいことなどないから、けれど先生に疑われているなんて家族に知られてしまったら私はとてもショックです」

嘘だと言いたくなるほどに言葉と表情がマッチしていない。

もちろん島津先生もそんなことはわかっているだろう。

けれど、変に事を大きくしたくないのか、変に関わりたくないのか結局は「そう言うことなら早く家まで送り届けなさい」と栗見さんを見逃した。

「よく平然とあんな嘘つきますね」

島津先生の車がコンビニを出たのを見届けると僕は栗見さんにそう話しかけた。

「嘘じゃないさ。このバイク本当に兄のだし。君と偶然会ったのも本当だろう?」

それは随分と自分勝手な解釈だと思う。

「でも、お兄さんよくバイク貸してくれましたね。あんな山道行くのに、キズとか気にならないんのかな?」

「気になるでしょ。だから黙って借りてきた。そもそも私無免だから貸してくれるわけないし」

ハハハと乾いた笑いをあげる栗見さんを見て僕は背筋がゾッとした。

そしてもう二度と彼女の後ろには乗らないと心に決めたのだった。



夜、僕は寝室のベッドの中で今日のことを思い起こしていた。

現実なのに今日のことはまるで夢物語の様だ。

幽霊を求めて廃校に向かうとそこには謎めいた美少女がいた。

なんだか物語のあらすじを読んだかの様な出来事コレをどう俊に説明しようか?

そんな事を考えてると僕はいつの間にか眠りについていた。

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