第3話
脆いながらも自然の温もりが感じられた木床から無機質で冷たいしっかりとした足場に。
沈むような床の感触から固い反発するかのような感触の変貌に驚いて転けそうになる。
床を見るとトンネルをを境に床が木材からコンクリート製に変わっていた。
つま先で地面を叩くとコツコツとしっかりとした足場が確認できる。
コレなら足場が抜ける心配はしなくて良さそうだ。
けれどここは余りにも暗い。
手探りで足を引きずる様にゆっくりと進んでいるけれど、いつ転んでしまってもおかしくない。
そんな暗闇の中ゴソゴソと足元で音がするものだから僕はつい叫びそうになった。
少し闇になれた目で音の先を見つめると栗見さんが何やらしゃがみ込んでいるのが見えた。
「どうしたの?気分でも悪い?」
「いや、この暗さだ明かりがないとね」
用意していたのか?
それともここにおいていたのか?
どちらかはわからないけれど、ポケットから取り出したマッチに火を着けると足下にあった蝋燭のランプに火を灯す。
実物のランプなんて初めて見た。
温かな光が暗闇を打ち消していく。
その中で浮かび上がる光景はとても職人が作ったとは思えない不格好なゴツゴツとした床とその先にある一階へと通じる階段だった。
「コレ作ったの?」
「私じゃないけどね。元々この廃校別の人が無断で使っててさ、その人が出て行ったから私はそれをもらい受けただけ。この階段もあの教室も全部前の人の置き土産ってわけ。もっともインテリアは私の趣味だけど」
ここを使っていたとはどういう意味だろうか?
ホームレスが住み着いていたのか?
それとも栗見さんの様に秘密基地にしていたのか?
はてまた別の理由があるのか?
少々疑問には思ったがさほど興味もないので相槌だけを打つ。
階段はほんの8段ほどで終わりその先には高さ50センチ程の段差があった。
「きっと階段を作るのが面倒になったのね」
栗見さんはそう文句を垂れながら段差を飛び降りる。
こう視界が悪い中よくやる。
そんな感心を抱きながら僕はそんな勇気はないので段差につかまりながら、ぶら下がる様に降りる。
段差の下は全面を木製の壁で囲まれていて出口など見えない。
どうするのかと栗見さんを見つめるとおもむろに壁を手で押し始めた。
まさかと思い見ていると、壁はクルリと一回転して隠し扉がその姿を現した。
「回転扉!?なんか忍者屋敷みたい」
「面白いでしょ?」
扉の向こうから顔を半分だし栗見さんはクスリと上品に笑う。
扉を抜けるとそこは一階の廊下だった。
「なるほどここを使って上り下りしてたわけだ。あの綱で登るの大変ですもんね。でもこちらも、あの段差が障害になりますけどどうやって登ったんの?」
「そんなの助走つけて飛びついたに決まってるじゃない」
当たり前のように言う栗見さんだがあの段差も相当高い。
彼女見かけによらず運動神経が高いのかも?
別に悪いことなどしていなにのに今まで運動というものから目を背けてきた自分がなんだが情けなく思えてきた。
空を見ると日はさらに傾き1日が終わりを告げようとしていた。
少しまずいと思う。
このままだと帰る間に日が暮れてしまう。
あの獣道を暗闇で帰るのは危なすぎる。
最悪このままここで朝を待つ方が得策だろうか?
そんなことを考えていると栗見さんは校舎を出て校庭の奥にあるサッカーゴール跡へと向かった。
長らく使われなかったそれは完全に錆切ってしまい、網ももう破れとても使える代物ではなくなってしまったいた。
その残骸横に停められていたのは黒いオフロードバイク。
栗見さんはそれに跨るとエンジンをかける。
心地よいエンジン音と共にバイクは唸り声を上げる。
セイラー服の女子高生がオフロードバイク。
不釣り合いながらも様になる栗見さんはどこか物語から飛び出してきたような非現実感がある。
「なんですかそれ?」
ギョッとして聞く。
「私の愛車!乗ってく?」
ニカと笑いながら親指で後方を指す。
なんとも男らしい。
「コレで山降るんですか?危なくない?」
タメ口で行こうと思っていたが栗見さんの奇天烈な行動に圧倒されて自然と敬語に変わってしまっていた。
栗見さん自身は特にその変化を指摘しない。
「なら歩いて帰る?」
そう切り返されると僕は言葉を失う。
「安全運転でお願いします」
ゆっくりと栗見さんの後ろに座る。
手はどこにおけば良いのか分からずとりあえず肩を掴むことにした。
体もなるべく離して密着しない様に気をつける。
そんな風にゴソゴソ姿勢を変えてると急に栗見さんが笑い出した。
「ささっと掴まりなよ。そんなんじゃ落とされるよ。掴まるのは腰!体ももっと密着させないと!それとも女子に捕まるのは恥ずかしい?」
挑発的な言い方に苛立ち僕は少しヤケクソ気味に栗見さんにしがみつく。
「発進して下さい!」
「あいさー落ちたら死ぬかもだから気をつけてねー」
出発直前にとても恐ろしい事を言う栗見さんを僕が睨みつけると彼女はなにが面白いのかまた笑うのだった。
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